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2006.03.02

いもりの間違い(いもりのまちがい)/落語

たった5分で出来るストレス解消法

ほれ薬が話題。ホントに、こんなのがあればねえ。

長屋の家主である呉服屋・伊勢屋の娘に
恋わずらいした源治。

ところが、
当人は一度もその娘を見たことがない。

夢の中でさらしのふんどしを一本買いに行ったところ、
娘が出てきて、
あの方は家の長屋にいる人だから、
おアシを取っちゃいけないよ
と言いながら、こっちを横目で見た時、
思わずブルブルっと震えがきた。

(引き続き夢で)
それから湯に行って、
出て来ると外に娘が立っている。

おまえさんの家が、どこだかわからなかった。

さあ、お家に行きましょう
と言って、一緒に帰ってくると、
さっそく娘が
「おかみさんは? お独り身でございますか」
と聞くなり、上がり込み、
それから二人で差し向かい、
茶を飲んで焼き芋をつまんだところで目が覚めた
という「見ぬ恋に焦れる」といういじらしさ。

見舞いに来た友達が、
そういうのに一番効き目があるのが
いもりの黒焼きだという。

つまり、
惚れた相手の身につけるものに振りまけば、
たちまち恋がかなうという惚れ薬。

これを、少しおめでたい六兵衛に買ってこさせ、
機会をうかがうと、
伊勢屋の物干しに娘の襦袢(じゅばん)が干してあったので、
これ幸いと屋根伝いに潜入し、
襦袢にいもりの粉をたっぷりと振りかけて帰った。

二、三日待ったが、
娘から何の音沙汰もないので焦れていると、
やっと待望の手紙が来た。

無筆なので、
友達に代わって読んでもらうと、
父親は墓参で留守、母親は耳が遠いから、
私から源治さんに直接お話ししたいからちょっと来てほしい
とのこと。

なんだかわからねえが、定めて薬が効いてきたのだろう
と、喜んで行ってみると、
予想に反して娘は、意外に年増。

まあ、年増も悪くない
とほくそ笑むと、
娘が切り出したのは、なんと家賃の催促。

あなたは八か月もためているので、
あと三日以内に払えなければ
店を空けて出て行ってほしい
という、恐ろしく冷酷な宣言。

それだけ。

がっかりして帰った源治、
また病がぶり返し、
六兵衛を呼びつけて、
おめえ、たしかにいもりを買ったのか
と念を押すと
「あ、しまった。ヤモリ(家守=家主)の黒焼きだった」

【うんちく】

昔も同じ、男の願望

原話は安永10年(1781=天明元)刊の笑話本
「民和新繁」中の「ほれ薬」です。
今も昔も、男の考えることは、一向に変わらないようで。

上方には別話の「いもりの黒焼」があり、
惚れた女にいもりの粉をかけようとした男が、
誤って米俵にかけてしまい、俵が追いかけてくるため
「苦しい、苦しい」と言いながら逃げるドタバタ劇で、
友達が「何が苦しいねん?」と聞くと
「飯米に追われ(生活が苦しい意)てます」
と、サゲになります。

こちらは、桂米朝が復活して演じ、CDにも入れていますが、
民話の「惚れ薬」をそのまま頂いたもので、
こうした話は全国各地に伝わっているようなので、
本編「いもりの間違い」の方も、おそらく
類似の民話が原型なのでしょう。

オチの異同

三代目柳家小さんの明治29年の速記では
「いもりの間違ひ」と題していて、
本サイトでもそれにならっていますが、
「薬違い」の題で演じられる時は
オチが少し違っていて、
「あっ、しまった。薬違いだ」としていました。
「道理で家賃の催促をされた」となる場合もあります。

戦後は七代目雷門助六の速記が残っていますが、
現在では演じ手はいません。

いもりの黒焼き

原料は伊吹山産のいもりのつがい。
交尾中のものを黒焼きにすると媚薬になると
伝えられてきましたが、効果の方はかなり怪しいもの。

黒焼きは「霜(そう)」とも呼び、漢方薬に
「伯州散」という、黒焼きを用いたものがあるほか、
猿の脳味噌、蛇、オケラ、孫太郎虫などのゲテモノを
黒焼きにして薬用にしました。
また、動物だけでなく、草の根を用いたものもあります。

大坂高津宮南側(現・大阪市南区瓦屋町)の黒焼き屋は、
天正年間が創始という老舗で有名でしたが、昭和54年に廃業。
井原西鶴(1642~93)作の「好色五人女」
(貞享3=1686年刊)に登場するほか、
各種の洒落本(しゃれぼん、=遊郭を舞台にした艶本)
などにも見えます。

江戸でも元禄年間(1688~1703)からはやり始め、
下谷黒門町(現・台東区上野一~三丁目)や
山下御成街道に「元祖黒焼き」の
看板を揚げた店が軒を並べました。

東京にも、戦前まで残っていて、現・桂米朝師が
「東京・上野の鈴本(演芸場)の近くに、二軒の
黒焼屋が並んでいて、片方が『本家いもりの黒焼き』と
看板を上げていて、おかしかったのを、覚えています」
と著書(「米朝ばなし 上方落語地図」)
で語っています。

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