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2006.03.07

お見立て(おみたて) 落語

志ん生もやってる、やけっぱちじみた廓噺です。 この1枚:お見立て

吉原の喜瀬川花魁(おいらん)。

今日も今日とて、地方人の杢兵衛(もくべえ)大尽が
せっせと通って来るので、嫌で嫌でたまらない。

あの顔を見ただけでむしずが走って熱が出てくるぐらいだが、
そこは商売、なんとか顔だけは、
と、廓(くるわ)の若い衆に言われても嫌なものは嫌。

「いま病気だと、ごまかして追い返しとくれ」
と頼むが、大尽、いっこうにひるまず、
「病気なら見舞いに行ってやんべえ」と言いだす始末だ。

なにしろ、ばかな惚(ほ)れようで、
自分が嫌われているのをまったく気づかないから始末に負えない。

で、めんどうくさくなった若い衆、
「実は花魁は先月の今日、お亡くなりになりました」
と、言ってしまった。

こうなれば、毒食らわば皿までで、
「花魁が息を引き取る時に
『喜助どん、わちきはこのまま死んでもいいが、
息のあるうちに一目、杢兵衛大尽に会いたいよ』
と、絹を裂くような声でおっしゃって」
と、口から出まかせを並べたものだから、
杢兵衛は涙にむせび、
「どうしても喜瀬川の墓参りに行く」
と言って、きかない。

「それで、墓はどさだ」
「えっ? 寺はその、えーと」

困った若い衆、喜瀬川に相談すると
「かまやしないから、山谷あたりのどこかの寺に引っ張り込んで、
どの墓でもいいから、喜瀬川花魁の墓でございます
と言やあ、田舎者だからわかりゃしない」
と意に介さないので、
しかたなく大尽を案内して、山谷のあたりにやってくる。

きょろきょろあたりを見回して、
その寺にしようかと考えていると大尽、
「宗旨は何だね」
「へえ、その、禅寺宗で」
「禅寺宗ちゅうのがあるか」

中に入ると、墓がずらりと並んでいる。
いいかげんに一つ選んで
「へえ、この墓です」

杢兵衛大尽、涙ながらに線香をあげ
「もうおらあ生涯やもめで暮らすだから、
どうぞ浮かんでくんろ、ナムアミダブツ」
と、ノロケながら念仏を唱え、ひょいと戒名を見ると
「養空食傷信士、天保八年酉年」

「ばか野郎、違うでねえか」
「へえ、あいすみません。こちらで」

次の墓には、「天垂童子、安政二年卯年」とある。

「こりゃ、子供の墓じゃねえだか。いってえ本当の墓はどれだ」
「へえ、よろしいのを一つ、お見立て願います」

【うんちく】

見立てる墓も時代色

原話ははっきりしませんが、
落語研究家・武藤禎夫氏説では
文化5年(1808)刊の笑話本「噺の百千鳥」中の
「手くだの裏」とのこと。

これは、吉原の遊女が、気に入らない坊主客を帰そうと、
若い衆に、花魁は急病で昨夜死んだと言わせるもので、
なるほど現行の噺と共通しています。

江戸で古くから口演されてきた廓噺ですが、
現存でもっとも古い、「墓違い」と題した明治28年の
二代目柳家=禽語楼小さんの速記では、最後の墓を
彰義隊士のそれにするなど、いかにも時代色が出ています。

ほかに、「陸軍上等兵某」を出すなどは、現在でも行われ、
先ごろの代452回落語研究会で演じた、若手の林家彦いちも
そうしていました。現代風のタレントの名を出すなどの
入れごとは可能なはずですが、差し障りがあるのか、この場面は、
昔通りにアナクロにやるのが決まりごとのようです。

戦後は、六代目春風亭柳橋始め、多くの大看板が手掛けました。

お見立てって?

サゲは、張り見世で客が、
格子内にズラリと居並んだおいらんを吟味し、
敵娼(あいかた)を選ぶことと掛けたものです。
「お見立てを願います」というのは、その時
若い衆(牛太郎)が客に呼びかける言葉でした。

張り見世は夕方6時ごろから、お引け(10時過ぎ)までで、
引け四ツの拍子木を合図に引き払いました。

この「実物見立て」は、明治36年に
吉原・角町の全盛楼が初めて写真に切り換えてから
次第にすたれ、大正5年には全くなくなりました。

音源の少ない噺

昔からどういうわけかレコードが少なく、
戦後はずうっと六代目柳橋のもののみというありさまでした。

十代目馬生と志ん朝のCDが発売されているのは、喜ばしいことです。

志ん朝の女郎は特に絶品で、この二人を通して
「幻の」志ん生版「お見立て」をしのぶよすがともなります。

「幕末太陽伝」にも登場

「お見立て」は落語を題材にした
川島雄三監督の映画「幕末太陽傳」(1958年)にも
サイドストーリーの一つとして取り上げられています。(「品川心中」)

杢兵衛大尽に扮していたのは、
太めのジャズピアニストで、コメディアンや俳優としても異色だった
故・市村俊幸(愛称ブーちゃん)でした。

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