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2006.05.30

江戸っ子(えどっこ) 落語

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江戸っ子は意地っ張りの権化。見た目だけの威勢が身上ですね。

江戸っ子気質は、律儀と強情。

それを絵に書いたような老人が、
江戸から明治にかけては山ほどいた。

日本橋槙(まき)町の駄菓子屋「野村」の隠居・稲造も、その一人。

若いころから茶道具に凝り、
また、音曲なら河東節であれ一中節であれ、
なんでも玄人はだしという粋人だが、
せがれに店を譲って楽隠居した今も、
いったん言いだしたことはテコでも譲らず、いっこうに丸くならない。

ある日、
隠居が昔から目をかけている道具屋の竹屋六兵衛が、
いい茶碗が入ったというので訪ねてくる。
この男、目利きは一流だが、強情では稲造にまさるるとも劣らない。

さて、そこでひと騒動。

稲造が茶碗を気に入って、問題は値段に。

六兵衛の言い値が十五両。

ところがご隠居、事もなげに「
ああそうか。じゃ十両でいいね」

耳が遠いふり。

こう当然のように値切られると、
いくら日ごろ世話になっている相手でも、
簡単に負けては六さん、男と江戸っ子が立たない。

「いえ、負かりません」
「いいじゃねえか。出し掛けたもんだから、十両にしときな」
「いいえ、いけません。高いと思いなさるなら、こちらへお返しを」
「誰が返すと言った」
「だから、十五両掛け値なしです」

負けろ、負けないの水掛け問答で、
こうなれば二人とも意地づく。

一歩も引かない。

そのうち隠居が、昔のことをネチネチと持ち出し、
おまえには無利息で金を貸してやった
と言うと、六兵衛も、
利息はあなたが受け取らないので、その代わりに大黒屋の切手(=商品券)を付けた
と応酬。

険悪なムードになったところで、
大声を聞きつけてせがれの当主・権次郎が登場。

事情を聞き、なんとか調停しようとするが、まるでダメ。

困って六兵衛に、
私が差額の五両を出すから、親父の顔を立てて、表向きは負けると言ってくれ
と頼み、ようよう承知させた。

隠居、勝利(?)で、とたんにご機嫌。

「いや、よく負けてくれた。負け賃に五両出そう」

いや、ごりっぱ。六兵衛、ありがたく受け取って権次郎に、
「これは若だんなにお返しします」
「どうして?」
「今度のケンカまでお預けしときます」

【うんちく】

二大絶滅種「恐竜と……」

「江戸っ子」の純粋種と共に、今は滅び去った噺。

四代目橘家円喬の、明治30年代の新作と見られ、
明治39年の「文藝倶楽部」に掲載された円喬の速記が、
今残るこの噺の唯一の「化石」です。
江戸っ子の常軌を逸した強情をカリカチュアした
岡鬼太郎作「意地くらべ(アップ済)」の
先行作品ともみられます。

なお、円喬の速記の題名表記は「江戸子」ですが、
読みは「えどっこ」。
「文七元結」の別名も同名ですが、むろん別話です。

江戸っ子の源流

古くは「江戸者」「江戸びと」「江戸根生(お)い」などと呼びました。
「江戸っ子」という言葉が現れたのは意外に新しく、
明和年間(1764~771)あたりといわれるので、よく時代劇で
赤穂浪士の討ち入り(1702)の背景に登場する江戸町人が
「コチトラエドッコデイベラボーメ」などとタンカをきるのは
まったくの嘘っぱちということになります。

有名な川柳「江戸っ子の生まれぞこない金をため」は、
安永2年(1773)刊の「川柳評万句合」に登場しますが、、
同5年刊「俳風柳多留」第十一篇にはまだ「江戸もの」とあります。
家康の江戸入府から百七十年あまり、ようやく江戸気質というものが
はっきり成熟してきたのがこの時代。

したがって、金銭を卑しむ風潮、この噺や「強情灸」などに見られる
強情者、意地っぱりといった気質が、このあたりから
「江戸っ子」のイメージの代表として定着し始めるわけです。

江戸っ子の条件とは? 

「江戸っ子」の定義にはさまざまある。

①山王権現・神田明神の氏子であること

②芝口から筋違御門までの範囲で生まれた者
※これを「古町」と呼び、
行政区画としての江戸の範囲である「御朱引内」よりなお狭い。

③親子三代続いて下町に住んだ者
※四谷・牛込などの山の手は厳密には「江戸」ではない。
牛込(新宿区)生まれの夏目漱石も「江戸っ子」ではない、ということになる。

④職人であること
※商人は他国者が多く、江戸っ子ではない。

などが挙げられています。

こうした希少価値の「純粋な江戸っ子」は、
かえって正面切って「江戸っ子」というのを恥じらい、
「江戸者」「東京びと」と自らを呼んだようです。

七代続きの江戸人である池波正太郎の小説に、
「江戸っ子」という名称は使われていません。

商人も、江戸者のガサツさを嫌い、下町育ちでも
「江戸っ子」と呼ばれるのを嫌ったとか。

大黒屋の切手

大黒屋は尾張町(中央区銀座五丁目)にあった
鰹節問屋・「大黒屋重兵衛」のこと。

切手と呼ばれる商品券は、
贈答用に鮨屋、菓子屋、鰹節屋などの
大店が発行したもので、
現存する老舗「にんべん」の切手も有名でした。

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