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2006.06.08

大男の毛(おおおとこのけ) 落語

その名の通り、キーワードは大男と毛。バレ噺です。

ヌッと立つと、
乳から上は雲に隠れて見えないというくらいの、
大男の関取を連れて、ひいきの石町のだんなが吉原へ。

なにしろ、とてつもなく巨大な代物なので、お茶屋は大騒動。

座敷に通して酒を出すのに、
普通の杯では飲み込んでしまうというので、
酒樽を猪口(ちょこ)代わりに、水瓶であおるというすさまじさ。

その関取、これでも
「ワシは酒が弱い」
と言って、こくりこくりと居眠りを始めた。

部屋の中に山ができたようなもので、じゃまでしようがないので、
どこかへ片づけてしまえと、
襖(ふすま)をぶち抜いて一六五畳敷きの広間をこしらえ、
そこに寝かせることにしたが、それがまた一大事。

布団は蔵からあるだけ運んで、
座敷中片っ端から並べ、枕は長持ちを三つ分くくり付けた代用品。

寝間に担ぎ込むのに十人がかりで
「頭はどこだ」
「巽(たつみ=東南)の方角だ」
「磁石を持ってこい」
と大騒ぎ。

掛け蒲団も山のように盛り上げて、
まるで熊野浦に鯨が揚がったよう。

ようやく作業が完了したところで、
今度は花魁(おいらん)の出番。

年増(としま)ではダメだから、
せいぜい若いのをというだんなの指示で、
年は十七だが、そこはプロ。

泰然自若として、心臓に毛が生えている。

ところが、この大山にはさすがに仰天。

無理もない。
関取がいびきをかくごとに、
魔術のように火鉢が中空へ。

下りると、また噴き上げられる。

寝返りを打つと家鳴りがして、
まるで地震か噴火。

「驚いたねえ。ちょいと、関取の懐はどこだい」
「へえ、向こうが五重の塔になりますから、三の輪見当でしょう」

それでも花魁、関取の腹にヒョイとまたがった。

「恐ろしく高いねえ。江戸中が見渡せるよ。
わちきの家があそこに見える。おや、段々坂になった。ここは穴蔵かしらん」

「これ、ワシのへその穴をくすぐるな」

そのうちに、段々坂から花魁がすべり落ちて、
コロコロ転がる拍子に、薪ざっぽうのような物にぶつかった。

妙な勘違いをして
「不思議なこと。大男に大きな○○はないというけど、
関取、おまはんのは、体に似合わず小粒だねえ」
「馬鹿ァ言え。そりゃ毛だ」

【うんちく】

明治の名人のエロ噺

原話は天明6年(1786)刊の絵入笑話本
「腹受想(ふくじゅそう)」中の「大物」。

この噺のようなバレ噺(艶笑落語)で、
実名で速記や上演記録が残ることはまずありません。
今回、あらすじの参考にしたのは
明治28年4月の「百花園」に掲載された、
四代目橘家円喬の速記ですが、名前入りで
しかも当時の大看板の口演記録が残るのは、
きわめて珍しい例です。

ただ、艶笑がかっているのは、オチの部分だけで、
前半はただ、関取の巨人ぶりの極端な誇張による笑いと、
右往左往する宿の連中の滑稽だけです。

これと対照的なのが、「小粒」「鍬潟」といった
小人力士の噺ですが、どちらも艶笑噺の要素はありません。
また、この噺の前半と似て、力士の巨体を誇張する噺に
「半分垢」(アップ済)がありました。

ギネスものの巨人ランキング

相撲取りで歴代随一の巨人は、土俵入り専門の
看板力士だった生月(いけづき)鯨太左衛門
(1827~50)に止めをさすでしょう。

記録によると、二十歳で身長233cmといわれますが、
一説には243cmあったとか。

それに次ぐのが、巨人の代名詞として、
「半分垢」のマクラにも実名で登場することのある、
大関・釈迦ケ獄雲右衛門(1749~75、227cm)、
文政期の看板力士・龍門好五郎(1807?~33?、226cm)、
同じく大空武右衛門(1796~1832、228cm)という面々。

明治以後では、関脇・不動岩三男(1924~64、212cm)が
現在に至るまでの記録保持者です。
外国人力士も多くなり、身長・体重の平均値は
昔とは比較にならないほどの現在の相撲界でも、
210cmを超えるとなると、そうザラには
出ないということでしょう。

なお、大男に大きな……というのはまったく
当てにならないらしく、相撲界に巨根伝説は
数多いのですが、その反対の話はついぞ聞きません。
まあ、これは普通人のやっかみ、負け惜しみと
思った方がいいでしょうね。

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