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2006.07.23

臆病源兵衛(おくびょうげんべえ) 落語

昔は、「臆病」というものは、病気だったのでしょうか?

「臆病源兵衛」とあだ名がつく男、
大変なこわがりで、
日が暮れては戸を閉ざしてガタガタ一晩中震えているし、
自分の家では夜は一人で便所にも行けない、というくらい。

退屈をもてあました近所のご隠居、
洒落心といじめ心があるので、
ひとつこの男をこっぴどく脅かしてやろう
と、源兵衛の職人仲間の八五郎を抱き込み、一芝居たくらむ。

源兵衛、根は好色で、しかも独り身なので、
まず隠居が嫁さんを世話してやると持ちかけ、
渋るのをむりやりに、夕方、自分の家に連れ込む。

幽霊が出そうだと、早くも震え出すのをなんとかなだめ、
「俺がここで見ていてやるから、水を汲んできてくれ」
と、台所へ行かせる。

おっかなびっくり水瓶に近づくと、
暗がりから八五郎の手がニューッ。

逆手に持った箒(ほうき)で顔をスーッとなでたからたまらず、
「ギャアーッ」

源兵衛、恐怖のあまり八五郎にむしゃぶりつき、
金玉をギュッと握ったから、八五郎、目をまわした。

ところが隠居もさるもの。少しもあわてず、
これを利用して続編を考えつく。

化け物だと泣き騒ぐ源兵衛に
「ともあれ、おまえが八公を殺しちまったんだから、
お上にバレりゃ、打ち首獄門だ。
それがイヤなら死骸をつづらに押し込み、
夜更けに高輪あたりの荒れ寺に捨ててこい」
と、言う。

臆病も命には代えられず、
源兵衛、泣く泣く提灯を片手、
念仏を唱えながらつづらを背負って芝の古寺の前まで来ると、
これ幸いとお荷物を軒下に放り棄て、あとは一目散。

そこへ通りかかった、品川遊廓帰りの三人組。

ふとつづらに目を止めると、てっきり泥棒の遺留品と思い込み、
欲にかられて開けてみると手がニョッキリ。

失神していた八五郎が「ウーン」と息を吹き返す。

三人、驚いたのなんの、悲鳴を上げて逃げ出した。

あたりは真っ暗闇。

八五郎は、すっかり自分が地獄へ来てしまったと思い込み、
つづらからようよう這いだすと、
幽霊のようにうろうろさまよい始める。

たまたま迷い込んだ寺の庭に蓮池があったので、
「ありがてえ、こりゃ極楽の蓮の花だ、ちょいと乗ってみよう」
と、さんざんに踏み散らかしたから、それを見つけた寺男はカンカン。

棒を持って追いかけてくる。

「ウワー、ありゃ鬼。やっぱり地獄か」

やっと逃げ出して裏道へ駆け込むと、そこにいたのは、なかなかいい女。

「姐さん、ここは地獄かい」
「冗談言っちゃいけないよ。表向きは銘酒屋なんだから」

【うんちく】

やり方 その1

原話はまったく不明で、別題は「浄行寺」。
これは、源兵衛が死骸を捨てていく、芝・寺町の
古寺の名から取ったものです。

明治期では三代目柳家小さんと
二代目三遊亭金馬(1926年没)が得意にしました。
この金馬は先々代で、俗に「お盆屋の金馬」。
あの往年の爆笑王・柳家金語楼の師匠です。

続いて昭和に入ってからは、
八代目桂文治(1955年没)が手掛けました。

あらすじでは、明治30年の小さんの速記を参照しましたが、
二代目金馬のやり方は、後半が違っていて、
つづらが置き去りにされるのは浅草寺の境内、開ける二人は
赤鬼・青鬼の扮装で脅かして金をせびる物乞いになっています。

また、逃げ込む先は付近の人家ですが、出てきたのが
地獄のショウヅカの婆さんそっくりの奇怪な老婆。
八五郎は自分も白装束なので、てっきり死んだと思い込み、
「ここは地獄ですか」と聞くと、
「いいえ、だんな(娘)のおかげで極楽さ」
というサゲになります。

やり方 その2

つまり、娘が囲われ者で、母親まで
楽をさせてもらっているという食い違いですが、
どちらにしても初めに説明しておかないと、
現在では通じません。

前半は、「お化け長屋」や「不動坊」のように、
臆病者を脅かす面白味がありますが、
後半がこのように古色蒼然としているため、
八代目文治以後はまったくすたれていたのを、
十代目金原亭馬生が復活し、後者のサゲで演じていました。

その馬生も没して二十余年。今度こそもう
継承者はないだろうと思ったら、
桃月庵白酒が2005年11月、落語研究会の高座で熱演。
こうした埋もれた噺が、意欲的な若手・中堅によって
次々に復活されるのは、頼もしいかぎりですね。

銘酒屋って?

アイマイ屋ともいい、私娼を置いた最下級の売春宿です。
ゴマカシのために申し訳程度に酒を置き、女は酌婦。
昭和初期までは、この呼び方は残っていたようです。
敗戦直後は、「青線」と称されました。

これを「地獄宿」、女を「ジゴク」「ジゴクムス」とも呼んだため、
そこの女将が勘違いをしたというのがサゲです。

ギャグから

源兵衛が隠居に、事が露見すれば死罪だと脅されて、

「キンタマぁ二つあるから、おまえさんと一つずつ
握りつぶしたということに……」
                (三代目柳家小さん)

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コメント

本日、白酒師匠のこの話を聞いてきたばかりです。あまり聞いたことがない噺だったので、調べていたら、ここにたどりつきました。白酒師匠の大師匠にあたる先代馬生師匠の持ちネタだったのですね。とても納得しました。感謝いたします。

投稿: 木越 治 | 2016.06.24 23:43

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