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2006.09.27

雷飛行(かみなりひこう) 落語

奇妙奇天烈な珍品です。

ころは大正。

なじみの芸者を連れて日光へ遊びにきた男。

ふと好奇心がわいて、芸者を先に東京に帰すと、
一人で山奥まで足を踏み入れた。

ところが、慣れない山奥で案の定道に迷い、
日も暮れたので困っていると、遠くに人家の灯。

これはありがたい、一晩泊めてもらおう
と近づくと、なんと、りっぱなお屋敷。

はて、こんな所にといぶかしがりながら案内を乞うと、
取り次ぎに出てきた男
「きさま人間か」

よくよく見ると、素っ裸の虎の皮の褌(ふんどし)。

ここは日光屋雷右衛門という、
雷の元締めの屋敷だったから、男は仰天。

とにかく、中に入れてもらうと、
貫禄十分の雷が、座敷で酒をのんでいる。

横を見ると、天人のように美しい娘が一人。

雷右衛門の一人娘で、名前は稲妻(いなづま)とか。

一目惚れした男、
娘に酌をしてもらい、あれこれお世辞を並べているうちに、
娘もまんざらでなさそうで、いつしか二人は深い仲になった。

実は、例の芸者とも、もう夫婦約束をしてあるのだが、
そんなことはきれいに忘れ、
ずるずると娘といちゃついて二日、三日と過ぎるうち、
とうに二人の仲を悟った雷親父
「オレも野暮なこたあ言わねえ。ただ、こうなったら、家の養子になってもらおう」

もとより惚れた仲、
二つ返事で承知したが、先方にはまだ条件がある。

「養子になるんなら、やっぱり雷にならなくちゃあいけねえ」
「へえ、人間でも雷になれますか?」
「そりゃあ修業しだいよ」

というわけで、雷学校に入って勉強する羽目になった。

東京から来たから、東雷と名を変えて、一心に修行に励むうち、
まだ成績が足りないが、元締めの養子だから卒業させてやってよかろう
ということになり、いよいよ卒業飛行の日。

先生が、
「おい東雷。うっかりすると雲を踏み外して落っこちるから注意しろよ。
太鼓のたたき方でスピードが変わるから、
むやみにたたいたり低空飛行をするな。
それから、てめえは助平だから、飛行中に下界の女なんぞ見ちゃあならねえ。
必ず墜落するから」

細々と注意され、いよいよ雲に乗って出発。

針路を南に取って、ピカリピカリと稲妻を光らせながら進むうち、
いつしか東京上空へ。

浅草あたりに来かかると、実によく下界が見える。

ひょいと見ると、
前の婚約者の芸者が、やらずの雷というやつで、男としっかり抱きあっている。

「こら、あんまりそばへ寄るな。私は雷は虫が好かないんです、だって。
馬鹿にしてやがる。一番脅かしてやろう」

焼き餅半分、ゴロゴロガラガラとあんまり電気を強くしたものだから、
東雷、あえなく雲を踏み外して墜落。

「あー恥ずかしい。落第(落雷)だ」

【うんちく】

大正後期の新作

大正10(1921)年3月の「文藝倶楽部」に掲載された
三代目古今亭今輔(1924年没)の速記が、唯一の資料です。

もちろん、ネタ元と思われる笑話などもなく、
第一次大戦前後の「飛行機ブーム」を当て込んだ
新作と思われます。

今輔自身の創作かもしれませんが、
これもはっきりしません。

同じ月の「文藝倶楽部」には、
これもやがて文明の花形となる自動車を題材にした
「自動車の蒲団」(二代目三遊亭金馬・演)の速記もあり、
科学文明の時代に突入していく「大正新時代」の世相がしのばれます。

「際物」の宿命として、当然ながら今輔以来、
今日まで手掛けた演者はありません。

雷の登場する噺

雷の噺としては「雷の子」「へその下(艶笑)」
「雷夕立」などがありますが、いずれも小咄程度で、
古典落語では長編は見当たりません。

ライ学校?

昇学校から宙学、雷学校と、
もちろんすべてダジャレ。

ギャグもほとんどダジャレを並べただけです。

たとえば、雷学校で、東雷が教授に質問。

「あそこで勉強しないで遊んでいるのは?」
「フーライ(=風来坊)だ」
「頭を抑えていやな顔をしているのがいます」
「あれはキライ(=嫌い)じゃ」
「雲に乗って行ったり来たりしているのは?」
「オーライ(=往来)」

こんな調子です。

東雷先生の本名は中山行夫。

本職は会社員としてありますが、
これだけはダジャレではなさそうです。

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