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2006.09.28

癇癪(かんしゃく) 落語

他人に当たり散らす、怒りんぼうの噺です。

大正のころ。

ある大金持ちのだんなは、有名な癇癪持ち。

暇さえあれば家中点検して回り、
あそこが悪い、ここが悪いと小言ばかり言うので、
奥方始め家の者は戦々恐々。

今日も、
その時分にはまだ珍しい自家用車で御帰宅遊ばされるや、
書生や女中をつかまえて、
やれ庭に水が撒いていないの、天井にクモの巣が張っているのと、
微に入り細をうがって文句の言い通し。

奥方には、
茶が出ていない、おまえは妻としての心掛けがなっていない
と、ガミガミ。

おかげで、待っていた客が恐れをなして退散してしまった。

それにまた癇癪を起こし、
主人が帰ったのに逃げるとは無礼な奴、首に縄付けて引き戻して来い
と言うに及んで、さすがに辛抱強い奥方も愛想をつかした。

妻を妻とも思わない、こんな家にはいられません
と、とうとう実家へ帰ってしまう。

実家の父親は、出戻ってきた娘のグチを聞いて、
そこは堅い人柄。

いったん嫁いだ上は、どんなことでも辛抱して、
亭主に気に入られるようにするのが女の道だ、
「けむくとも末に寝やすき蚊遣かな」と雑俳にもある通り、
辛抱すれば、そのうちに情けが通ってきて、
万事うまくいくのが夫婦だから、短気を起こしてはいけない
と、さとす。

いっぺん、
書生や女中を総動員して、
亭主がどこをどうつついても文句が出せないぐらい、
家の中をちゃんと整えてごらん
とアドバイスし、娘を送り返す。

奥方、父親に言われた通り、家中総出で大掃除。

そこへだんなが帰ってきて、例の通り
「おい、いかんじゃないか。入口に箒が立てかけて」
と見ると、きれいに片づいている。

「おい、帽子かけが曲がって、いないか。
庭に水が、撒いてある。ウン、今日は大変によろしい。おいッ」
「まだ何かありますか?」
「けしからん。これではオレが怒ることができんではないか」

【うんちく】

作者は大財閥の若だんな

益田太郎冠者(本名・太郎、1875-1953)が
明治末に、初代三遊亭円左(1911没)のためにつくった落語です。

作者の父親は三井財閥の大番頭として
明治・大正の財界に重きをなした男爵・益田孝(1848-1938)。

せがれの方は帝劇の重役兼座付作者で、
主に軽喜劇と女優劇のための台本を執筆しました。

「女天下」「心機一転」「ラブ哲学」「新オセロ」
などの作品がありますが、特に大正9(1920)年、
森律子主演のオペレッタ「ドッチャダンネ」の
劇中歌として作詞作曲した「コロッケの唄」は
流行歌となり、今にその名を残しています。

落語も多数書いていますが、現在演じられるのは
この「かんしゃく」くらいです。

富豪の日常を描写

明治末から大正期に運転手付きの自家用車を持ち、
豪壮な大邸宅で大勢の書生や女中にかしずかれ、
そのころはまだ珍しい扇風機まで持っている
このだんなの生活は、そのまま作者の父親のそれを
模写したものと見ていいでしょう。

現代的感覚からするともはや古色蒼然。

さほど面白くもありませんが、
わずかに主人公の横暴ぶりを、演者の腕によって
誇張されたカリカチュアとして生かせると、
掘り出し物になるかもしれません。

戦後は文楽の十八番

初演の円左の速記は残っていません。

円左没後は、三代目三遊亭円馬を経て
戦後、八代目文楽が一手専売、
十八番のひとつにしました。

ひところはよく、客席から
「かんしゃく!」
と、リクエストされたとか。

作られたのは明治期ですが、
文楽が作者の許可と監修のもとに細部を整え、
大正ロマン華やかなりしころに
時代設定したものでしょう。

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