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2006.09.22

釜泥(かまどろ) 落語

なんだか、のんきな噺でほのぼのしてますねえ。

大泥棒・石川五右衛門の手下で六出無四郎、腹野九郎平という二人組み、
親分が釜ゆでになったというので、
放っておけば今に捕まって、こちとらも天ぷらにされてしまうと心配になった。

そこで、親分の追善と将来の予防を兼ね、
世の中にある釜という釜を全部盗み出し、
片っ端からぶちこわしちまおうと妙な計画を立てたが、
さしあたり、大釜を使っているのは豆腐屋だから、
そこからとりかかろうと相談がまとまる。

それから間もなく、
豆腐屋ばかりに押し入り、金も取らずに大釜だけを盗んでいく盗賊が
世間の評判になる。

何しろ新しい釜を仕入れても、
そのそばからかっさらわれるのだから、
業界は大騒ぎ。

ある小さな豆腐屋。

爺さんと婆さんの二人きりで、
ごく慎ましく商売をしているが、
この店でも、のべつ釜を盗まれるので、
爺さんは頭を悩ませている。

何か盗難防止のいい工夫はないかと相談した結果、
爺さんが釜の中に入り、酒を飲みながら寝ずの晩をすることになった。

ところが、いい心持ちになり過ぎて、
すぐに釜の中で高いびき。

婆さんもとっくに船をこいでいる。

と、そこに現れたのが例の二人組み。

この家では先だっても仕事をしたが、
またいい釜が入ったというので、喜んでたちまち戸をひっぱずし、
釜を縄で縛って、棒を通してエッコラサ。

「ばかに重いな」
「きっと豆がいっぺえへえってるんだ」

せっせと担ぎ出すと、
釜の中の爺さんが目を覚まして
「婆さん、寝ちゃあいけないよ」

泥棒二人が変に思っていると、
また釜の中から
「ほい、泥棒、入っちゃいけねえ」

さすがに気味悪くなって、
早く帰ろうと急ぎ足になる。

釜が大揺れになって、爺さんはびっくりし
「婆さん、地震か」

その声に二人は我慢しきれず、
そっと下ろして蓋を開けると、
人がヌッと顔を出したからたまらない。

「ウワァー」
と叫ぶと、何もかもおっぽり出して泥棒は一目散。

一方、爺さん、
まだ本当には目が覚めず、相変わらず
「婆さん、オイ、地震だ」

そのうちに釜の中に冷たい風がスーッ。

やっと目を開けて上を向くと、空はすっかり晴れて満点の星。

「ほい、しまった。今夜は家を盗まれた」

【うんちく】

諺を地でいった噺

古くから、油断して失敗する意味で
「月夜に釜を抜かれる」という諺(ことわざ)があり、
大元をたどれば、この噺は、この諺を前提に作られたと思われます。

寛延4(1751)年刊の「開口新語」中の
漢文体の笑話が原型ですが、
直接の原話は安永2(1773)年刊の笑話本「近目貫」中の「大釜」です。

原話では、入られるのは味噌屋で、
最初に強盗一人が押し入り、家財はおろか
夜具まで一切合財盛っていかれて、
おやじが仕方なく、大豆を煮る大釜の中で寝ていると、
味をしめた盗人が、図々しくも翌晩、
また入ってきて……ということになります。

オチは現行と同じです。

上方落語では「釜盗人」と題しますが、
東京のものと、大筋で変わりはありません。

円窓の持ちネタ

もともと、小咄やマクラ程度に軽く演じられていたものが、
明治後期から一席噺となったものです。

明治34年8月、「文藝倶楽部」所載の
六代目朝寝坊むらくの速記がもっとも古く、
現行のやり方は、オチも含めて
ほとんど、むらくの通りです。

同時代の大物では、四代目橘家円蔵の速記もあります。

戦後は、六代目春風亭柳橋、三代目三遊亭小円朝などが演じ、
特に小円朝が得意にしていました。

小円朝は、釜ごと盗まれた爺さんが
「おい、婆さん」と夢うつつで呼ぶ声を、
次第に大きくすることを工夫したという
芸談を残しています。

現役では、三遊亭円窓がよく手掛け、
レコードも出ていましたが、
残念ながら、現在は廃盤のようです。

戦時中は「準・禁演」

落語研究家・野村無名庵(1888-1945)著「落語通談」によれば、
戦時中、時局に合わない禁演落語を定めた時、
自粛検討会議の席で、泥棒噺にランクが付けられました。

甲乙丙に分け、
甲はまあお目こぼし、
丙は最悪で無条件禁止。

その結果、甲に「釜泥」「眼鏡屋」「穴泥」碁泥」
「だくだく」「絵草子屋」「探偵うどん」「熊坂」。

不道徳な部分を抹消すれば、という条件付きの乙に
「出来心」「しめ込み」「夏泥」「芋俵」「つづら泥」
「にかわ泥」「やかん泥」「もぐら泥」「崇禅寺馬場」、
丙が「転宅」と決まったとか。

泥棒に「不道徳」もヘチマもないでしょうが。

ところが、実際に設定され、「噺塚」に葬られた五十三種に、
何と泥棒噺は一つも入っていません。

といっても、この五十三種は大半がエロ噺か不倫噺。

「釜泥」など泥棒噺がその次のランクで、
事実上「自粛」させられたことは間違いないでしょう。

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