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2006.10.06

汽車の白浪(きしゃのしらなみ) 落語

明治の、しかも汽車を舞台にした珍談です。

時は明治の初め。

大阪は船場の商人の小林という男、
東京に支店を出そうというので、
両国の宿屋に仮住まい中だが、
ある日、商用で横浜へ行った帰り、
ステンショ(駅)から、終汽車(終電)に乗った。

相客は女が一人。

官員(公務員)か誰かの細君らしく、
なかなかオツな年増なので、
小林君、すっかりうれしくなって、話しかけてみると、
未亡人で年始の帰りだという。

自分もこれこれこういう者だと打ち明けると、
ぜひお近づきになりたいと、思わせぶりなそぶり。

ところがそこへ、
目つきの悪い男が入ってきて、女の方をじろじろ見ている。

きっと泥棒だから、
汽車を下りたら気をつけなければいけないと、
二人は品川駅に着くと、手に手を取って急いで人力車溜まりへ急ぐ。

相乗りで両国まで行こうと、車屋に声をかけようとすると、
暗がりから、さきほどの男が
「ちょいと待ちなさい」
と婦人の袂(たもと)を押さえる。

「女に用があるから」
と連れて行こうとするので、
小林は、てっきり強盗か誘拐犯だと、止めようとするが突き倒され、
女はそのまま連れ去られてしまう。

小林君、宿に帰って、腰をさすりながらふと懐中を見ると、
紙幣で二百円入った財布がない。

「やはりあいつは泥棒」

明日、警察に届けようとその夜は寝てしまう。

翌朝、
これから警察に行こうとしている時、
客だというので出てみると、なんと昨夜の男。

「あなたは小林礼蔵さんか、これに見覚えは」

男が出したのは、紛れもなく、盗まれた財布。

男は、実は刑事で、
あの女は、黒雲のお波という女賊だったと知らされて、二度びっくり。

「へー、あれが黒雲、道理で私の紙幣を巻き上げようとした」

【うんちく】

明治後期の新作

明治32(1899)年の六代目桂文治の新作で、
翌年の正月発行の雑誌「百花園」に掲載されました。

文治は明治の落語界に独自の地位を占め、
「下谷上野の山かつら、かつら文治は噺家で」
と子供の尻取り歌にまで歌われた道具入り芝居噺の名人でした。

文治当人も冒頭で
「愚作ではございますが」と断っていて、
その通りあまり芳しい出来とはいえないのですが、
人物の会話などはリアルでうまく、
さすがと思わせるところはあります。

もちろんその時代のキワモノなので、
文治以後の口演記録はまったくありません。

白浪って?

語源は後漢書の「白浪賊」。

三国志で名高い黄巾の乱の残党が、
白浪谷に立て籠もって山賊を働いた故事から、
盗賊の異称となりました。

歌舞伎の外題によく使われ、
黙阿弥作の「弁天娘女男白浪(べんてんむすめめおのしらなみ)」、
通称「白浪五人男」は、よく知られた泥棒狂言です。

文治は芝居噺を専門にしていたので、
内容は明治新時代の盗賊であっても、
この古風な呼称を使ったのでしょう。

賊も世につれ

この噺で、女が語っています。

「手前のつれあいは、先達っての日清の戦争で亡くなりました」
と語っていることでもわかるのですが、
日清戦争が終結してすでに五年目。

日清戦争は、明治維新以後初めての対外戦争です。

兵員や軍需物資輸送の必要から、
日本の鉄道網はこれを契機に、
飛躍的に整備・拡大されました。

新橋(汐留)・横浜(桜木町)間の鉄道開通から二十数年、
明治22(1889)年7月の東海道本線の
新橋・神戸間開通からも十年余。

旅客輸送量も、草創期とは比較にならないほど
伸びましたが、まだ夜間は利用客は少なく、
実際にもこのように、金のありそうな客を狙った
「密室」を利用した色仕掛けの女スリが
出没していたとみえます。

当時の横浜までの所要時間は53分。

室内は暗く、終電で相客はほとんどないとあれば、
この小林君、格好のカモだったでしょう。

筋がそっくり「汽車の大賊」

この速記の翌々年、明治35(1902)年に、
やはり汽車賊を扱った「汽車の大賊」という
江見水蔭(1869-1934)のサスペンス小説が発表されました。

水蔭は、日本の探偵小説のパイオニア。

そのバタくさい作風が受け、当時のベストセラー作家でした。
                    
この作品中でも、女賊が東海道線の列車中で、
九州の炭鉱主を色仕掛けで誘惑し、
金品を奪うという場面があります。

筋や設定がそっくりなところを見ると、、
江見センセイ、ちょいと「いただいて」しまったのかも。

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