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2006.10.22

工夫の医者(くふうのいしゃ) 落語

ばかばかしくてハイカラな明治の噺です。

藪で名高い先生の所へ、金さんが診察にやってくる。

のっけから、
先生の所はいつ来ても病人が来ていたことがない
と、嫌味を言われたので、
先生、信用を取り戻そうと、
薬なしで病を治すことを考えだしたと大きく出る。

「へえ、どういうんです」
「薬を使わず、理屈で治す。これはドイツの医者でもまだ発明してない」

金さんが、
それじゃあ、あっしはさなだむしがわいたんですが、
ひとつその理屈で治してほしい
と頼むと、
先生すまして
「それはわけない、蛙を飲め」
「そういうわけで?」
「腹の中へ入れば虫をくう」
「蛙が後に残ってあばれます」
「そんなら蛇をのみなさい」
「蛇が腹の中でのたくったら?」
「「ナメクジをぼむ。蛇はとろける」
「ナメクジが残ったら?」
「雀をのむんだ」
「腹の中に巣を作られちゃ困ります」
「そうしたら鷹をのめばいい。雀をくっちまう」
「鷹が残ったら?」
「鷲」
「鷲が残ったら?」
「狩人」
「狩人が残ったら?」
「鬼をのむ」
「こっちがのまれる。それで、鬼が残って腹ん中突っ付きまわしたら?」
「それなら節分の豆をのみなさい。
鬼は外だ。もしいけなければ熱燗で一杯やれば、鬼は焼け死ぬ」
「その酒は何といいます?」
「鬼殺し」
「先生、あなた頭がおかしくなりましたね」
「なに、鐘馗(正気)だ」

【うんちく】

鼻の円遊の爆笑編

原話は、天保8(1837)年刊の笑話本「落噺仕立ておろし」中の
「声の出る薬」とみられます。

もともと、小咄程度の短い藪医者噺を、
鼻の円遊こと初代三遊亭円遊が独立させて
明治24(1891)年、速記に残したものです。

明治31(1898)年、円遊門下の初代小円遊の速記では、
「新治療」と題して「工夫の医者」から「疝気(せんき)の虫」につなげ、
さらに、最初に出てきた患者(ここでは棟梁)が再び登場。

疝気の治療薬に、葵の葉三枚だけ処方されたので怒ると、
「これは三つ葵(徳川の紋章)、虫はサナダ(真田)であるから、
病はじきに癒えます(=家康)」
と、地口でサゲるという、
三編の小噺のオムニバスとしていました。

上方版はエロ噺

上方ヴァージョンの「蘭方医者」は艶笑落語で、
最後に傘と竿を持った書生を患者が飲まされ、
出てくる時に体内にそれらを置き忘れたので、患者は悶絶。

医者が、
「外科に行ってくれ。カサ(傘=瘡)がサオ(=男根)にかかった」
というものです。

題名の「蘭方」はオランダ医学のことですが、
「乱暴医者」と掛けてあるのでしょう。

話だけでなく、実際に飲ませてしまうのが
東京と違ってしつこいところですが、
最後は「地獄八景」と同じく、
「鬼を飲んだら、大王(閻魔大王=大黄)で下す」
というオチも使われました。

上方でも、東京の「工夫の医者」そのままの
「頓知の医者」があります。

原話「声の出る薬」

よく声が出るように、ナメクジをのみ、
そのあと、消化薬として蛙をのんだあと、
雉→狐→狩人→庄屋→鬼→鬼殺しと、
「虫拳」よろしく、次々に天敵をのんでいく小咄。

落語とは、順番とのむ物に、かなり異動があります。

藪医者の小咄5連発!

その1

ある医者のところに、盗人が忍び入った。
タンスをかついで逃げるところを、女房が発見。

「あれえ、どろぼおうッ」
とだんなを起すと、
盗人が居直って、
「やいっ、手向かいしゃあがると、たたッ斬るぞ」

脇差を抜いたので、先生、薬箱から調合用の匙を出し、
「これでもかッ」
と、ひらめかす。

アーラ不思議、盗人は
「こりゃかなわん」
と、タンスを捨てて退散。

女房、びっくりして、
「どうして逃げたの?」
と聞くと、先生、
「当たり前だ。この匙でどれだけ人を……」

(安永2=1773年刊「聞上手」中の「庸医匕」)

その2

長屋の子供が道で遊んでいて、医者に蹴飛ばされた。

親が怒ってねじこもうとすると、大家がなだめて、
「足で蹴られただけで済んだのはめっけもんだ。
今まであの先生の手にかかって、生き延びた患者は一人もねえんだ」

(安永6=1777年刊「春?」中の「藪医者」)

その3

ある男が、二階から落ちて気絶。

女房が、あわてて三、四軒隣の、下手村毒庵先生を頼んだ。

先生、みるなり、エヘンエヘンと咳払いして、
「はあ、こりゃもう息が切れた。もうとても助からんて。
来るのが一日遅かったわ」

(安永10=1781年刊「民話新繁」中の「野父医者」)

その4

閻魔大王が、明日をも知れない大病に。

地獄の医者が、いろいろ手を尽くしても、容態は悪化の一途。

最後の手段で、「シャバ(=この世)の名医を連れてこい」と
青鬼が言いつけられた。

「かしこまりましたが、シャバに参りましても、どれが
名医だか分かりません。どうやって見分けましょう?」
「そりゃ、門口に幽霊がいない医者が名医だわ」

教えられて青鬼、さっそくシャバで、片っ端から
医者の玄関先をのぞいて回る。

ところが、どこもかしこも、
盛り殺された恨みの幽霊がうじゃらうじゃら。

「こりゃいかん 」
と閉口して、新道(路地裏)に回ると、
新しい格子と、医者の表札のある小さな家。

ここには、幽霊は一人もいない。

これこそ名医と喜んで、入ってみれば
昨日から開業した医者。

(天明2=1782年刊「笑顔はじめ」中の「閻魔」)

その5

医者同士が、今までに殺した数を自慢しあう。

「拙者は、三十人ばかり」
「はて、それは少ない。して、医者におなりなすって何年に?」
「いや、去年から」。

(安永2=1773年刊「口拍子」中の「医の年数」)

いやはや、ですが、
今でもシャレで済まないのが、怖いところです。

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