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2006.10.19

首屋(くびや) 落語

実にどうも、ばかばかしいお笑いです。

鳥羽伏見の戦い、上野の戦いなどで、江戸が騒然となっていたご一新のころ。

旗本の二、三男なども、
今までのように安閑とはしていられなくなり、
いざという時には大いに働かなければならないというので、
自然と刀などは、良い物を求めるようになった。

買うには買っても、切れ味が分からなくては安心できない。

刀を試すにはまず胴試し、
つまり、生体実験が一番手っ取り早いというわけで、
江戸市中のあちらこちらで辻斬りや試し斬りが横行し、
標的になる町人は、外もおちおち歩けない。

そんな折も折、
番町あたりで、
首のところに風呂敷を巻き付け、
大声で「首屋、くびいーやッ」と売り歩く男が出現した。

さる旗本の殿さま、
この声を聞きつけて、御用人の藤太夫を呼び、
あの首屋を屋敷の中に連れて参れ
と、言いつける。

藤太夫、ばかばかしくなり、
おそらく栗屋とでも聞き間違えたのだろうと思ったが、
主命には逆らえないので、外に出てみると、
確かにクビヤクビヤとがなっている男がいる。

「こりゃ町人、少し待て。その方、何を売っておる」
「私は首を売っております」

大変な奴だと思いながら、
買ってやるからこちらに参れ
と、勝手口で待たせた後、庭先に通す。

庭には荒むしろが敷かれて、手桶に清めの水。

殿さまが縁側から声をかけ、
「首屋は、その方か」
「へい、さようで」
「なぜそのようなつまらん考えを起こした」

男が言うには、人間わずか五十年、
二十五年は寝て暮らし、病気で五年居眠りを五年、昼寝を十年と
差し引くとなくなってしまう。

ばかばかしくなったので、
いっそひと思いに、というわけ。

殿さまは機嫌がよくなった。

「思い切りのよい奴。買ってやるが、いくらだ」
「掛け値なく七両二分で」

金は家族に届けてやる
と言うと、死んでも肌に付けておきたいと、なかなかの欲張り。

風呂敷を取り、その場に直ると、
殿さま、白鞘(しろざや)の柄を払ってぎらりと氷の刃(やいば)を抜き放ち、
庭に下りて、ひしゃくの水を鍔元(つばもと)から掛けさせた。

「首屋、覚悟はよいな」
「へい」

イヤッ
と斬り下ろしてくる刃をひらりとかわし、
後ろへ飛びのいてふところから張り子の首を放り出すと、一目散。

「ややっ、これは張り子。そっちのだ」
「これは看板でございます」

【うんちく】

値上げされた首代

原話は明和9(1772)年刊の笑話本「楽牽頭」中の「首売」。

オチも含めて、大筋は現行とほとんど同じですが、
原話は本所・割下水(わりげすい)のあたりが舞台で、
首代は一両となっています。

現行の七両二分は、
間男の示談金と同じで(「お釣りの間男」参照)、
これを「首代」と呼んだため、
噺の中の首代も、この値段にしたのでしょう。

三遊派伝統の噺

三遊亭円朝から四代目橘家円喬、昭和の六代目円生へと継承された
正当派の三遊伝統の噺です。

明治29(1896)年の四代目円喬の速記が残りますが、
円朝が明治になって、時代を幕末維新期に設定したと思われ、
それが噺に、一種の緊迫感とすごみを与えました。

円朝は、サゲに関して、
首という言葉を何度も繰り返すようなムダはするな
という、教訓を残しています。

明治から昭和にかけて、大看板の多くが手掛けていますが、
戦後では、六代目円生と並び、
八代目正蔵(彦六)の風格も、忘れがたいものがあります。

「首」の類話二題

短い噺なので、この前に
「試し斬り」という小咄を付けることがあります。

刀の試し斬りをしたがっている侍が、
朋輩が物乞いを真っ二つにしたという自慢話を聞き、
早速出かけていって、同じようにバッサリ。

とたんに物乞いがムシロをはねのけて
「誰だ、毎晩オレをなぐるのは」
とサゲる、シュールなオチです。

上方に「首医者」という噺があります。

洋行帰りの医者の所に、頭のおめでたい喜六がやってきて、
女にもてそうな首と取り換えてほしいと頼みます。

見本をいろいろ見ますが、
色男の首は高いので、
結局、落語家某の首とすげ替えることにします。

手術が終わって、
「これ、首代を置いていかんかい」
と医者が言うと、喜六、
「前へ回って見てみ。頼んだ奴と首が代わっとる」

張り子って?

木型に紙を重ねて張り、
乾いたあと、型を取り去ったものです。

現在でも、芝居の切首などに用いられます。

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