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2006.10.03

菊江の仏壇(きくえのぶつだん) 落語

上方噺の傑作です。東京では、あまり聴きませんが。

ある大店のだんな、
奉公人にはろくなものも食わせないほどケチなくせに、
信心だけには金を使う。

その反動か、せがれの若だんなは、
お花という貞淑な新妻がいるというのに、
外に菊江という芸者を囲い、ほとんど家に居つかない。

そのせいか、気を病んだお花は重病になり、
実家に帰ってしまった。

そのお花がいよいよ危ないという知らせが来たので、
だんなは若だんなを見舞いに行かせようとするが、
番頭に、もしお花がその場で死にでもしたら、
若だんなが矢面に立たされて責められると意見され、
ふしょうぶしょう、自分が出かけていく。

実は、これは番頭の策略。

ケチなだんながいないうちに、
たまには奉公人一同にうまいものでもくわしてやり、
気晴らしにぱっと騒ごうというわけ。

若だんな、親父にまんまと嫌な役を押しつけたので、
早速、菊江のところに行こうとすると番頭が止める。

大だんなを嫁の病気の見舞いにやっておいて、
若だんなをそのすきに囲い物のところへ行かせたと知れたら、
あたしの立場がありません、
どうせなら、相手は芸者で三味線のひとつもやれるんだから、
家に呼びなさい
と言う。

それもご趣向だと若だんなも賛成して、
店ではのめや歌えのドンチャン騒ぎ。

そこへ丁稚(でっち)の定吉が菊江を引っ張ってくるが、
夕方、髪を洗っている最中に呼びに来られたので、
散らし髪に白薩摩の単衣という、幽霊のようなかっこう。

菊江の三味線で場が盛り上がったころ、
突然だんなが戻ってきたので、一同大あわて。

取りあえず、菊江を、
この間、だんなが二百円という大金を出して作らせた、
人の二、三人は入れるという馬鹿でかい仏壇に隠した。

だんな、とうとうお花はダメだったと言い、
かわいそうに、せがれのような不実な奴でも生涯連れ添う夫と思えば、
一目会うまでは死に切れずにいたものを、
会いに来たのが親父とわかって、にわかにがっくりしてそのままだ。

南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏
と、番頭がしどろもどろで止めるのも聞かず、
例の仏壇の扉をパッと開けたとたん、
白薩摩でザンバラ髪の女。

「それを見ろ、言わないこっちゃない。
お花や、せがれも私も出家してわびるから、
どうか浮かんどくれ浮かんどくれ、ナムアミダブツナムアミダブツ」
「私も消えとうございます」

【うんちく】

原話の原話はゲイばなし

直接の原話は文化5(1808)年刊「浪花みやげ」中の「ゆうれい」で、
すでに現行の落語と筋はほとんど同じです。

ただ、このさらに原型と思われる笑話があり、
享保16(1731)年ごろ刊の「男色山路露」中の「謡による恋」がそれです。

これは、出典の書名から見てもわかるとおり、
今でいうハードゲイのたぐい。

ある男が野郎(役者で男娼)を自宅に引き込み、
よろしくお楽しみの最中、おやじが突然帰宅。

あわてて男娼を仏壇に押し込みますが、
「風呂敷」よろしく、おやじがその前に居座るので、
出るに出られない男娼、そのうち小便がしたくなって……
という、あまり趣味のよくないお笑いです。

上方落語の大ネタ

本家は上方落語で、
大阪では桂米朝初め、三代目桂春団治、故・桂文枝など、
上方を代表する実力者しかこなせない切ネタ(大ネタ)です。

上方の舞台は船場の淀屋小路で、
菊江はキタの新地の芸妓という設定になります。

上方版でもレコードは少なく、
米朝、故人の小文治、小南くらいのものです。

東京版は馬生が復活

東京には明治20年代に初代三遊亭円右が
「白ざつま」の演題で東京に移植したといわれます。
明治29(1896)年に、円右と同門の円朝門下で、
当時上方で活躍していた二代目三遊亭円馬(1918年没)が
「仏だん」の題で口演した速記が残ります。

東京ではその後あまり演じ手はなく、途絶えていたのを
十代目金原亭馬生が元の「白ざつま」の題で復活し、
レコード(CD)は「菊江の仏壇」で吹き込んでいます。

現役では、桂歌丸が手掛けています。

白薩摩って?

薩摩がすりは本来は琉球(沖縄)産。

薄い木綿織物で、白地のものは夏の浴衣などに用いられます。
「佃祭」の次郎兵衛も
これを着ていたのが原因で、幽霊に見違えられました。

死人の経帷子(きょうかたびら)は、
普通、絹もしくは麻で作るので材質は違いますが、
同じ単衣で白地ということで、
その上ザンバラ髪なので、幽霊と間違えるのは
無理もありません。

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