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2006.11.27

後家殺し(ごけごろし) 落語

すじだけ読むと、とても笑える代物ではないのですが。

職人の常さん、大変に義太夫に凝っている。

ある日、町内の伊勢屋という大きな質屋で開かれた会で、
「平太郎住家」を一段語ったのが縁となって、
そこの後家さんといい仲になり、もう三年越し。

後家さんは年のころ二十七、八で、色白の上品ないい女。

常さん、コソコソ隠れてするのが嫌いな性分なので、
堂々とかみさんに打ち明けると、このかみさんもさばけたもの。

決してうれしいことではないが、
私を追い出すというのでさえなければ、
おまえさんがほかに変な女に引っ掛かるよりはいいし、
男の働きだからと公認してくれている。

そんなわけで、本宅と伊勢屋に一日交代で泊まり、
向こうも心得たもので、月々にはちゃんと金も届けて寄こすし、
うらやましいご身分。

ところが、その話を聞いた友達がやっかみ半分に、
あの後家さんは、もうとうにおまえに飽きが来て、
荒井屋という料理屋の板前で喜助という男とできている
と吹き込んだから、さあ常さんは心穏やかではない。

喜助は女殺しの異名を取り、小粋ないい男。

疑心暗鬼にかられた常吉、
ついにある夜、出刃包丁を持って伊勢屋に踏み込み、
酒の勢いも借りて
「よくもてめえはオレの顔に泥を塗りゃあがったなッ」

後家さんのいいわけも聞かばこそ、
馬乗りになると、出刃でめった突き。

なます斬りにしてしまった。

あとで、その話はまったくの作り話と知れ、
後悔したがもう遅い。

お白州へ引き出され、打ち首と決まった。

「その方、去る二月二十四日、
伊勢屋の後家芳なる者を殺害いたし、重々不届きにより、
重き科にも行うべきところ、お慈悲をもって打ち首を申し付ける。
ありがたくお受けいたせ」
「ありがたかありません」
「今とあいなり未練なことを申すな」

奉行が、
いまわの際に一つだけ願いをかなえてつかわす
というので、
常さん、義太夫で
「後に残りし女房子が、打ち首とォ聞くゥなァらばァ、
さそこなげかァーん、ふびんやーとォー」
と語ると
奉行、ぽんと膝をたたいて
「よっ、後家殺しッ」

【うんちく】

マニアックな円生ネタ

もともと上方落語の切ネタ(大ネタ)で、
原話は不詳です。

大阪の二代目桂三木助からの直伝で、
戦後、六代目三遊亭円生が東京に移植、
独壇場にしていました。

義太夫の素養が不可欠なため、円生在世中も
ほとんどほかにやる落語家はなく、
没後の継承者も出ません。

今となると、貴重な噺です。

実際に、高座で義太夫を語る音曲噺なので、
「やはり耳で聞いていただくのがいちばん」
と、円生も述べています。
                      
円生は、
「噺の中の進行のために、浄瑠璃の文句のすべてを
節づけず、半分の文句は普通にしゃべりますが、
義太夫の素養がないと、節の場合とちがって
自然に出てこないものです」
とも、語り残しています。

この噺や「豊竹屋」などは、
少年時代、プロの義太夫語りだった円生ならではのもの。

こうした噺を自在にこなせる落語家は、もう出ないでしょう。

平太郎住家ッて?

浄瑠璃「祇園女御九重錦」全五段のうち三段目。

柳の木の精が人間の妻になるという筋立てで、
俗に「柳」ともいい、歌舞伎にも脚色されています。

お慈悲をもって打ち首

「下手人(げしゅにん)」といいます。

この言葉は、犯人をも意味しますが、
罪名として用いられる場合は、単純な斬首刑のこと。

取られる物は首だけで、同じ打ち首でも、
「死罪」のように市中引回し、家財没収、
山田朝右衛門による様(ためし)斬りなどの
付加刑がない分、確かにありがたいお慈悲です。

後家殺しって?

上方で、浄瑠璃にかけるほめ言葉です。

語源は不明ですが、
後家を悩殺するほどの色男、という意味でしょう。

義太夫の三味線は「太ザオ」なので、
あらぬ連想をたくましくすることも
不可能ではありませんが……。

「後家が惚れるくらいですからいい加減な義太夫ではいけません」
(六代目円生)

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