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2007.03.18

三都三人絵師(さんとさんにんえし)

志ん生も時折やってました。愉快なネタですね。

江戸っ子の三人組が上方見物に来て、京の宿屋に泊まった。

その一人が寝過ごしているうちに、
ほかの二人はさっさと市中見物に出かけてしまって、
目覚めると誰もいない。

不実な奴らだと怒っていると、
隣から声が聞こえる。

大坂の者と京者らしい。

よく聞いてみると、
やれ鴨川の水は日本一で、江戸の水道はどぶ水だの、
関東の屁毛垂(へげたれ)だの、人種が下等だの
と、江戸の悪口ばかり。

さあ頭にきた江戸の兄さん、
威勢よく隣室へ乗り込む。

さんざん悪態をついたあと
「やい黒ん坊、てめえの商売は何だ」
「名前があるわ。わたいは大坂の絵師で、武斎ちゅうもんで」
「ムサイだあ? きたねえ面だからムサイたあよく付けた。やい青ンゾー、出ろ」
「うちは許してや」
「出ねえと引きずり出すぞ。てめえは何者だ」
「うちは西京の画工で俊斎」
「ジュンサイだあ?道理でヌルヌルした面だ」
「それであんたは?」「オレか?オレも絵師よ」

もちろん、大ウソ。

こうなればヤケクソで、
姓は日本、名は第一、江戸の日本第一大画伯たあ俺のことだ
と、大見得を切る。

そこで、三都の絵師がせっかく一所にそろったのだから、
ひとつ絵比べをしようじゃねえか
ということになった。

一人一両ずつ出し、一番いい絵を描いた者が三両取る
という寸法。

俊斎が先に、木こりがノコを持って木を挽く絵を描いた。

「やい青ンゾー、てめえとても絵師じゃあメシがくえねえから死んじまえ」
「どこが悪い」
「木こりが持つのはノコじゃねえ。ガガリってえもんだ。
それは勘弁してやるが、おが屑が描いてねえ」

これで、まず一両。

続いて武斎。

母親が子供に飯をくわせている図。

「やい、黒ん坊。てめえも絵師じゃ飯がくえねえが、
二人並んで首ィくくるのもみっともねえから、てめえは身を投げろ。
俺が後ろから突き飛ばしてやろう」

これは、継子ならともかく、
本当の子ならおっ母さんが口をアーンと開いてやってこそ
子供も安心してたべられる。

それなのに、母親が気取って口を結んでいるとはどういうわけだ
と、なるほどもっともなご託宣なので、
武斎も、しかたなく一両出す。

いよいよ今度は江戸っ子の番。

日本第一先生、もったいぶった顔で刷毛にたっぷり墨を含ませる。

ついでに二人の顔をパレット代わりに使い、
真っ黒けにしてから、画箋を隅から隅まで黒く塗りつぶし、

「さあわかったか」
「さっぱりわからん」

「てめえたちのようなトンマにゃ分かるめえ。
こいつはな、暗闇から牛を引きずり出すところだ」

【うんちく】

志ん生が復活した旅噺

この噺自体の原話は不明ですが、
長編の「三人旅」シリーズの終わりの部分、
「京見物(京阪見物)」の一部になっています。

三代目春風亭柳枝の明治26(1893)年の速記では
「京阪見物」として、「東男」と称する市内見物の部分の後、
「祇園会(祭)」の前にこの噺が挿入されています。

明治期にはほとんど「東男」や「祇園会」に
くっつけて演じられましたが、
二代目柳家小さんは、一席噺として速記を残しています。

その後すたれていたのを、
戦後、五代目古今亭志ん生が復活。
ただ、志ん生没後、ほとんど演じ手はいません。

青ンゾーって?

青ん蔵とも書きます。
ヒョロヒョロで顔が青いという印象で、
京都人を嘲っているわけです。

上方落語「三十石」でも、
船の中で大坂人が京都人を馬鹿にし、
「京は青物ばかり食ろうて往生(王城)の地や」
と言う場面があります。

語源は北関東訛りの「アオンゾ」もしくは
「アオンベイ」だといいます。

五代目志ん生は、
「てめえはつらが長えから、あご僧だ」
と言っていますが、これが志ん生の工夫なのか
単なる勘違いかはわかりません。

同じく大坂の絵師をののしる「黒ん坊」は、
芝居で舞台の介添えをする「黒子」のことです。

屁毛垂って?

ヘゲタレといいます。

逆に江戸っ子をののしる言葉ですが、
甲斐性なし、阿呆を指す上方言葉です。

江戸者に使う時は、屁ばかり垂れている
関東の野蛮人の意味と思われます。

ガガリって?

大型のノコギリのことで、ガカリとも呼びます。

用具に詳しいところから、
この「江戸はん」は大工と見られます。

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