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2008.06.24

品川の豆(しながわのまめ) 落語

バレ噺。こんなの、寄席では聴けません。

町内の若い衆がそろって品川の穴守稲荷に参拝して、
帰りに女郎買いに繰り込もうということになった。

ところが一人、新婚がいて、
かみさんにまだ遠慮があるから行きたくないが、
こういうのに限ってやっかみ半分、強制的に誘われるから断れない。

そこでかみさんに
「つきあいで品川に行くけど、見世には上がっても女とは遊ばない」
と誓い、後日の証拠に、自分の道具の先に左馬を書いてもらった。

遊ばなければ消えないワケだが、
ものの勢いというか、自分だけ花魁を買わない、ということはできない。

女房の手前、背を向けてじっとしてると、
花魁が、「あたしが嫌いかえ」となじる。

実はこうこうと話すと、
「かわいいねえ。そういうかわいい男にゃ、なお遊ばせたいよ。
心配せずにお遊びよ」
「だけど、左馬が消えちまう」
「そんなもの、後であたしが書き直してあげるよ」

帰って、亭主が
「ほら、この通り」
と前をまくって見せると、なるほど
まだ馬の字が書いてあるにはあるが、何だか変。

「少し大きくなってるねえ」
「そりゃそうだ。ゆんべ豆をくわせた」

【うんちく

原話は「うどん粉騒動」

「馬の豆」「返し馬」「左馬」など、
いろいろ別題がありますが、
原話は寛政10(1798)年刊の漢文体笑話本「善謔随訳続編」中の
「麪(饂)塵異味」です。

これは現行よりもっとすさまじい話で、
かみさんが亭主のエテモノにうどん粉を塗りつけて送り出します。

向こうで妙なことに使って、帰ったとき、
「毛の一筋分でもはがれていてごらん。あたしゃ、恨み死にして
七生まで祟ってやるからねッ。覚悟おしッ」

亭主もさるもの、予定通り妙なことに使ってお楽しみ。
コトが済むと新しいうどん粉を塗り直し、何食わぬ顔でご帰還。

ところが女房、粉まみれのアレをべろりとなめるや、目をむいて
「違うよこれはッ! あたしのは塩を混ぜといたんだよッ」

これでは、早いとこ恨み死にしていただいた方がよろしいようで。

実はこれのさらに原型が、
鎌倉時代後期に成立した説話集「沙石集」巻七「嫉妬の心無き人の事」に
すでにあり、こちらは、あまりの嫉妬深さに、
亭主はとうとう女房を離縁するという結末になっています。

豆にもいろいろ

「豆」はもちろん、ご婦人の……の隠語です。
転じて、女そのものの意味ともなりました。

ご年配の方は、昔小学校の教室などで、女の子と仲良くしていると
「男と女とマーメイリ」などと囃された経験をお持ちかと思いますが、
あの「マーメイリ」は実は「豆入り」で、男の中に女が
一人混じっていること(または逆)。

古くは女郎屋を「豆商売」、間男を「豆泥棒」などと呼びました。

その「豆泥棒」の意味を聞きに来た八五郎に、隠居が
さまざまな「豆」の種類を教える「豆づくし」という小咄があります。

人の女房は素人だから白豆。
芸者は玄人で黒豆。
大年増はナタ豆で、小娘はおしゃらく豆。

「それじゃご隠居さん、天女は?」
「うん、ありゃ、ソラ豆だ」

穴守稲荷のご利益

穴守稲荷は現・東京都大田区羽田三丁目で、羽田空港の裏手。

昔の羽田は、品川宿のはずれで、
文政年間(1818~30)に大津波が羽田を襲ったあと、
名主・鈴木弥五右衛門が堤防を作り、松を植樹して後難に備えました。

その際、堤防の上に五穀豊穣と、土地の安全を祈願して、稲荷社を勧請。

「穴守」の名の由来は不明ですが、
商売繁盛の祈願と共に、花柳界や郭関係の信仰が厚かったところから、
ほぼ見当はつきます。

江戸時代は、社殿から70mほどのところに、
羽田の渡し場があり、参道は奉納の赤鳥居が並び、
茶店や土産物屋が軒を並べてたいそう繁盛したといいます。

左馬って?

左馬は廓独特の鏡文字で、精力増強のまじない。
馬の桁外れの精力にあやかろうとしたものでしょう。

左馬の由来には諸説ありますが、
有名な山形・天童の左駒護符のいわれによると、
馬の逆字で「まう」と読み、
「まう」→「舞う」で、
舞はめでたい席で催されるので縁起がよい、
また、左馬の文字の下部がきんちゃく型をしていて、
富を招くとされる、
などとあります。

いずれにしても縁起物として、
全国の神社で左馬の護符が売られるほか、
花柳界でも、芸者の三味線の胴裏に書かれるなどしました。

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コメント

女房が「道具」に書いたのは「馬」という字で、花魁が書いたのが左馬だったと思いますが。

投稿: 今借亭波呂馬 | 2008.06.29 20:08

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