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2009.03.28

授業中(じゅぎょうちゅう)  落語

歌奴(現・円歌)のおはこ。60年代はのんきなもんでした

ある小学校に、ものすごいズーズー弁の先生が転任してきた。

最初の国語の授業で
「ツィみたつのスィんスィいわァ、
どごがほがのガッコサぶっトンでィったッス」

「さ、みんな国語の本サおっぴろげて、本サ、おっぴろげろ。
このヤロ、窓サ何でおっぴろげる。六十七ペーズ、おめえ立って読んでみろ」

「山のあなたの空遠く、幸い住むと人の言う。
ああわれ人ととめゆきて、涙さしぐみ帰りきぬ。
山のあなたの空遠く、幸い住むと人の言う」

「よぐ読みた。その隣」
「ヤヤ、ヤマヤマヤマ、ヤ、山のアナ、山のアナアナアナアナ」
「狸だね。なんで穴ばっかり探すんだ」
「先生、そいつはダメ。吃音です」
「いいからその先サやれ」
「アナアナ、アナアナ、あなた、あなた、もう寝ましょうよ」
「寝ましょうよだけ、何でスッと出るんだこのヤロ」

その次は、えらくダミ声。

「十九番、広沢虎造」
「のど自慢じゃねー。早く読め」
「お粗末ながら。(浪曲の節で)やまのあなたのおォ、
そおォらとおく、さいわいすむとォ、人ォのいう、ああわれ人とォ」
「ええどええど、もっとやれ」
「何だい、ひどい先生だね」

十九番、調子に乗って
「なみださしぐみィィィィかえりィきぬゥゥゥ、
とンビィがとんでェるあっかぎッやまァァ、
おとォこ一匹どこまでとばすゥ、くにさっだ忠治はいィィ男」
「このバカヤロ、どこサ、国定忠治なんで書いてある」
「あります」

よく見ると、教科書の表紙に「国定教科書」。

【うんちく】

早わかり国定教科書 その1

国定教科書は、国家が定める教育内容を各科目
一種類の教科書で統一して使用させるものです。

明治37年度から第一期。
教科内容としては最もリベラルなもので、
リンカーンやナイチンゲールが登場しました。

明治43年から第二期。尋常小学一年用の
国語は「ハダ、タコ、コマ」で始まります。

大正7年から第三期。
「ハナ、ハト、マメ、マス」。

以下、その2に続きます。

早わかり国定教科書 その2

昭和8年から第四期。
「サイタサイタサクラガサイタ」。

昭和16年から第五期。
この期から国民学校用となりました。
「アカイアカイアサヒアサヒ」。
敗戦直後に「炭ぬり教科書」に。

昭和22年から第六期。
「みんないいこ」。ここから平仮名書き。

昭和24年で国定教科書が終わり、複数の
検定教科書時代に移ります。

してみるとこの噺の時代は戦前らしいのですが
カール・ブッセがいつのに入っていたか
寡聞にして知りません。

ちなみに、「中沢信夫」氏の小学校入学時は
第四期の「サクラ教科書」のはずです。

国定忠治

侠客でも義賊でもなく、実際はただの逃亡殺人犯。

処刑のちょうど五ヶ月前、中風で倒れ、
ほどなく逮捕されたときは、もうヨイヨイ。

嘉永3年12月21日(1851.1.22)、カラっ風
吹きすさぶ上州・吾妻郡大戸村で磔。享年40。

戒名は遊道花楽居士、墓は生まれ在所の
上州・佐位郡国定村の養寿寺。

山のあなたって?

この噺で一躍有名になった、ドイツ新ロマン派詩人・
カール・ブッセ(1872-1918)の詩です。

原題は Uber den Bergen で、日本では上田敏
(1874-1916)の訳詩集「海潮音」(明治38年)で
よく知られるようになりました。

広沢虎造って?

昭和期、一世を風靡した浪曲師です。

本名・山田信一(1899-1964)。
東京出身で、大阪の広沢虎吉門下。大正11年真打。

得意は「スシ食いねえ」の「清水次郎長伝」、
志ん生が落語版を演った「夕立勘五郎」、
この噺に登場する「国定忠治」、「天保六花撰」など。

新作史上もっとも売れた? 山のアナ

現・三代目三遊亭円歌は本名・中沢信夫。

1929年1月10日、東京生まれ…が定説でしたが、
最近の落語協会公式サイトでは「1932年1月10日」
となっていて、三歳サバを読んでいます。
真偽不明、奇怪至極。

山手線新大久保駅員を経て、1945年9月、
二代目円歌に入門。前座名は歌治で、1948年4月、
歌奴で二つ目。1958年10月、同名で真打昇進。

1970年10月、三代目円歌を襲名。

「授業中」は自作自演の新作で、1967年、
爆発的に売れに売れました。「山のアナ」は
流行語になり、「ウタヤッコ」はたちまち、
テレビにひっぱりだこの売れっ子スターに。

続いて「浪曲社長」「月給日」「肥満小型」
「中沢家の人々」など、ヒットを連発。

長く人気を保ち、1996年、とうとう
落語協会会長に上り詰めました。

それにしてもこの噺、今聴けば古色蒼然、なぜ
あんなに受けたのかまったく分りません。

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