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2009.03.26

写真の仇討ち(しゃしんのあだうち) 落語

こんなかたき討ちならのんきでよいのですが……。

信次郎が、恋仲で、多額の金を貢いでいた
小照という芸者に裏切られた。

「あたしも士族の子。面目にかけても生かしちゃ置けないから、
これから女を一突きにし、自分も死ぬから」
と、暇乞いにやってきたので、伯父さんが意見をする。

「昔、晋(しん)国の智伯(ちはく)という人が
趙襄子(ちょうじょうし)に殺され、
その家来の予譲(よじょう)は主人の仇を
討とうとして捕らえられた。
趙襄子は大度量の人だから、そのまま許してくれたが、
あきらめずに今度は顔に漆を塗って炭を飲み、
人相を変え物乞いに化けて橋の下で趙襄子を狙った。
ところが敵の乗った馬がピタリと動かなくなり、気づかれた。
『この前、命を助けてやったのに、なぜ何度もわしを狙う。
もともとおまえの主人は范(はん)氏で、
それが智伯に滅ぼされた時に捕虜になって随身したもの。
とすれば、わしはおまえの元主人の仇を討ってやったも同じではないか』
と責めると
『ごもっともだが、智伯は私を引き立ててくれた恩があります。
士はおのれを知る者のために死す、と申します』
と悪びれずに言ったので、
趙襄子は感心して
『おまえの志にめでて討たれてやりたいが、
今わしが死んでは世の中が乱れる。
これをわしと思って、ぞんぶんにうらみを晴らせ』
と自分の着物の片袖を与えたので、予譲が剣でそれを貫く。

突いたところから血がタラタラ。

結局、予譲は自害したが、
ああ、人の執念は恐ろしいもの
と趙襄子は衝撃を受け、3年もたたないうちに
それが元で死んだ、という。

おまえも相手は商売人で、
だまされたのはおまえに軍配が上がるんだから、
大切な命をそんな女のために無駄にせず、
その女からもらったものを突くなり、切るなりして
うっぷんを晴らすがいい」

そう言われて、信次郎もなるほどと思い、
貸してもらった鎧通で、持っていた女の写真を思い知れ
とばかり、ズブリ。

とたんに写真から血がダラダラ。

「ああ、執念は恐ろしい。写真から血が」
「いえ、あたくしが指ィ切ったんで」

【うんちく】

予譲と趙襄子の故事

出典は司馬遷の「史記」中の『刺客伝』です。

写真事始

写真の日本伝来は天保12(1841)年、長崎の
上野俊之丞常定が、オランダ船で輸入された
ダゲレオタイプ・カメラ(水銀蒸気を用いたもの。
1837年にフランスのダゲールが発明)を
薩摩藩主・島津斉興に献上したのが始まりと
されますが、確証はありません。

川本幸民(1809-70)が安政元(1854)年に
日本最初の写真に関する翻訳書「遠西記述」を刊行。
その後、下岡蓮杖(1823-1914)、上野彦馬
(1838-1904)の二名が、最新のアメリカ式の
写真術を会得し、ともに写真館を開いて、
下岡は風景写真、上野は肖像写真のそれぞれ
草分けとなりました。

余談ですが、上野彦馬は、「坂本龍馬の写真」を
代表作とする、故・伴野朗の連作歴史推理小説集の
主人公・探偵役にされています。

彦六が戦後復活

昭和初期の八代目桂文楽の速記が残っていますが、
戦後は八代目林家正蔵(彦六)が「指切り」の
演題でレパートリーとしました。

本あらすじは、その正蔵の速記をテキストにしています。

正蔵は、二代目三遊亭小円朝門下で、やはり
この噺を得意としていた三遊亭円流の口演を
聴いて覚えたと語っていました。

「私の若いころ『写真を突くときは下へ置け。
下へ置かなきゃ指までじゃ来ない』と教えてくれた
先輩がありました(正蔵)」

他に、二代目(先代)三遊亭円歌も演じました。

長編人情噺を落語化

別題は「恨みの写真」「指切り」「写真の指傷」
「一枚起請」と、さまざまですが、
明治17年に刊行された二代目五明楼玉輔の
口演本「開化奇談写真廼仇討」を落語化したものです。

原作は、アメリカから帰朝した医学士の青年が
父親を毒殺した男に復讐しようと狙ったものの
明治政府の仇討禁止令で果たせず、写真を
刺して孝道を貫くという筋立ての長編人情噺です。

この趣向を、古くからあった「一枚起請」
という噺と結びつけたものと見られます。

この「一枚起請」は、現行の「写真の仇討ち」
と筋はほとんど同じですが、男が突くものが
女郎の起請文であるところが異なります。

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