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2009.04.11

崇谷(すうこく) 落語

今となっては聴くこともできない噺。「崇谷」とは人の名です。

水戸藩に使えていた、英林斎藤原崇谷という名高い絵師。

今は浪人で、
本所の原庭で気ままな暮らしをしている。

この先生、浅草観音堂の奉納額に
源三位頼政鵺(ぬえ)退治の絵を書いたことで
有名な天下の名人だが、
気まぐれの変人で大酒のみ。

諸侯からの依頼が引きもきらないが、
気が向かないと千両積まれてもダメ。

かと思えば近所の子供に頼まれれば
気さくに書いてやるという具合。

弟子志願者も大勢いたが、
絵はさっぱり教えないわ、
弟子から小遣いは取り上げるわ、
酔いつぶれているのを起こせば
ゲンコツを飛ばしてコブだらけにするわで、
一人去り二人去り、
今ではコケの一念の内弟子二人だけ。

ある夜、
雲州候松平出羽守の命で、
近習の中村数馬という若侍が、
崇谷に絵の依頼に来る。

若殿の初節句なので、
墨絵の鍾馗(しょうき)を描いてほしい
という望み。

ところが、先生、
例の通り朝から五升酒をくらって気持ちよさそうに
寝ていたのをたたき起こされたからヘソを曲げ、
数馬をコブだらけにした上、
頼みたければ、出羽守直々に来い
だのと、言いたい放題。

数馬はかっとして切り捨てようと思ったが、
ぐっと堪えてその日は帰り、主君に復命すると、
出羽守少しも怒らず、
今一度頼んでまいれと命じたので、
数馬は翌日また原庭を訪ねる。

崇谷は相変わらずのんだくれていて、
大名は嫌いだとごねるので、
数馬が、どうしてもダメなら切腹する
と脅すと、崇谷、二人の弟子に、
武士の切腹が実地で見られるのだから、
修行には願ってもない機会だ、
と言いだす始末。

これには数馬も降参して、
再度懇願すると、その忠心に動かされたか、
崇谷もやっと承知。

駕籠に酒を持ち込んでグビグビやりながら、
赤坂の上屋敷へとやってきた。

先生、殿さまの前に出ても、
あいさつの途中で寝てしまう体たらくだが、
出羽守が礼儀正しく事を分けて頼んだので気をよくしたか、
茶坊主に墨をすらせ、その顔をパレット代わり。

筆の代わりに半紙の反故紙で無造作に書きなぐったものを
三間離れて見ると、
鍾馗が右手に剣、左手に鬼の首をつかんで睨み付けた絵が
生きて飛び出さんばかり。

さすがに英林斎先生
と感服した殿さま、
今度は草木なき裸山を四季に分けて描いてほしい
と、注文。

崇谷、これも見事に描いて見せたので、
さすがに名人と、浴びるほど酒を振る舞って
「素人は山を描くのが難しいと申すが、
画工といえどやはり描きにくいか?」
「私は何を描いても同じ事だが、私の家の裏の、
七十七歳の爺はそう申しております」
「して、その者も画工か」
「いえ、駕籠かきです」

【うんちく】

「そばの殿さま」雲洲候

松江藩第七代藩主・松平治郷(はるさと、
1751-1818)は、明和4(1767)年襲封。

石高は十八万五千石。藩財政の建て直しに努め、
農政を改革、飢饉対策として、領国に信州から
そばを移植、これが現在の出雲そばの濫觴です。

不昧公と号され、風流人で茶道を好み、大名茶を
大成しましたが、この噺にもみられるとおり、
芸術にも理解と造詣が深かったことで有名です。

どこかで聴いたオチ?

講釈(講談)を基に作られたと思われますが、
はっきりしません。

明治23年11月、「百花園」に掲載された
二代目柳家(禽語楼)小さんの速記がありますが、
その後の後継者はないようです。

オチの部分の原話は、元禄16(1703)年刊
「軽口御前男」(初代米沢彦八・編著)中の
「山水の掛物」とみられます。

これは、須磨という腰元が給仕をしていて
雪舟の掛け軸の絵を見て涙をこぼすので、
客が不審に思って訳を尋ねると、

「私の父親も山道をかいて死にました」

そなたの父も絵師かと聞くと、

「いえ、駕籠かきでした」

というもの。このオチは「抜け雀」と同じです。

崇谷・小伝

本姓は高崇谷(1730-1804)で、別号は
屠龍翁、楽只斎、湖蓮舎、曲江、翆雲堂など
さまざま。噺中の英林斎というのは不詳です。

江戸後期の絵師で、佐脇崇之の門人でした。
この噺に登場する額については、
「武江年表」の天明7(1787)年の項に、

「五月、屠龍翁高崇谷、浅草寺観音堂へ頼政猪早
太鵺退治の図を画きたる額を納む。(中略)人物の
活動、普通の画匠の及ぶ所にあらず」

と記録されています。土佐・狩野両派の手法を
採り入れ、町絵師ながら、次代の浮世絵師に
大きな影響を与えました。

多くの門弟を育て、明和から寛政年間(1764~
1801)にかけて活躍。

墓所は浅草西福寺・智光院にあります。

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