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2009.04.12

脛かじり(すねかじり) 落語

怪談かた思いきや、ありゃりゃ、なーんだ。

勘当された若だんな、
今は居候の身だが、いっこうに改心するようすがないので、
預かり先の亭主、このままではためにならないと、
若だんなを目黒鬼子母神の宮司・近藤作右衛門方の婿養子に世話する。

実は、若だんなはもうとっくに偵察してあるが、
そこの娘は婚期を逸してもう二十五、六になるものの、大変な美人。
おまけに資産はある。

ところが、亭主の言うには、
縁がつかなかったにはわけがあり、
原因は不明だが、今まで何度か婿を取ったものの、
三日と居ついたことがない、
という。

若だんなは、
そんな話には耳を貸さず、
色と欲との二人連れで、早速飛びついた。

順調に話がまとまり、さて、婚礼の晩。

仲人は宵の口と客が帰った後、
いよいよ待ちに待った床入りという時になって、
娘は
「これからちょっと用事がありますから、少しの間お暇を」
と、妙なことを言うと、部屋から出て行ってしまう。

スカタンを食わされた若だんな、
こんな夜中にどこへ行くのかと跡をつけると、
なんと新妻は鬼子母神の墓場へ。

見ていると、新仏の石塔をのけ、
土饅頭の中に手を入れて、死人の手をむしゃむしゃ食らう。

ははあ、さてはこれが婿の居つかなかった原因か
と、若だんな、

部屋に逃げ戻ってガタガタ震えていると、女が戻ってきた。

「あたしはもう寝ないで神田に帰ります。命ばかりはお助けを」
「さては、私が墓場でやっていたことを」
「へえ、何かおいしそうにお召し上がりで」

女は、見られたのならしかたがない、
私は子供のころから、どういうわけか人の肉が好きで、
母親に、代わりにザクロを食べさせられていたが、
両親が鬼子母神に願掛けをして授かった子なので、
その因果か人肉の味を思い切れない、
それさえ我慢してくれれば、
どんなことをしてでもあなたに尽くすと誓ったので、
若だんなも承知して、めでたく夫婦になる。

「私もずいぶん人を食っていると言われるが、
いったい、体のうちじゃあ、どこが一番おいしいんでしょう?」
「そうですね、まず腕が一番です」
「それは無理もない。あたしも親父の脛をかじった」

【うんちく】

上方落語を「鼻」が改作

オチの部分の「親のすねをかじる」の原話は、
安永3(1774)年刊「茶のこもち」中の「子息」。

また、上方落語研究家の宇井無愁は、別に
原話として、同5(1776)年刊「売言葉」中の
「猫また」を挙げています。

これは、遊女と同衾中の男が、夜中に、女が
行灯の陰で人の腕をむさぼり食っているのを目撃、
これは猫又かと恐れおののきますが、翌朝見ると、
それはトウモロコシの殻だった、というオチで、
落語と関連性は薄いようです。

上方落語「腕(かいな)食い」または「いろ屋の
花嫁」が、明治中期に東京に移植されたもので、
爆笑王・初代(「鼻の」)三遊亭円遊が、鬼子母神
伝説を加味して改作しました。

明治23年の円遊の速記が残り、移植者も同人と
思われますが、はっきりしません。

上方の「腕食い」は伝説とは無関係で、勘当された
若だんなが養子に行く設定は同じですが、女は単に
人間の生血、死血を吸いたい病で、赤子の死骸を
棺桶(または墓地)から引きずり出して喰らうなど、
よりリアルで、猟奇性が強いものとなっています。

現在、演じ手は東西ともに絶えています。

鬼子母神伝説 その1

鬼子母神とは、インドの仏教説話中の鬼女です。

梵語でハーリーティといい、歓喜母、愛子母とも
呼ばれています。

インド・王舎城の夜叉(=鬼神)の娘で、絶世の
美女でしたが、鬼神の王・般闍迦(ハンジャカ)の
妻になり、千人(一説に一万人)の子を産みました。

人の子(一説に自分の子)を殺して食べるのを
常としていたので、人々は恐れおののき、仏陀に
すがると、仏陀は、鬼子母神が可愛がっていた
末子・嬪迦羅(ビャンガラ)を隠します。

鬼子母神伝説 その2

鬼母は狂乱し、仏陀を訪ねて助けを乞うと、仏陀は

「千(万)の子がいてさえ、たった一人の子を失って
そなたは悲しんでいるが、多くて五、六人しかいない
子の一人を殺された母親の悲しみを考えねばならない」

と、諭しました。鬼母は、今後決して子供を
食うことはせず、すべての子供の守護神となることを
誓ったので、仏陀は嬪迦羅を返してやりました。

仏陀が、また病気が出ぬようにと、味と色が
人肉に似た? ザクロの実を与えたことから、
鬼子母神像は、常に右手に吉祥果(ザクロ)を持ち、
左手に子供(嬪迦羅)を抱いています。

鬼女像もありますが、多くは、ギリシアの
アフロディテを思わせる豊満な美女像とされます。

鬼子母神伝説 その3

落語「清正公酒屋」(アップ済)で、せがれが
おやじに鬼子母神伝説を説明し、あたしは
千人どころか一粒種だから、勘当なんぞは
できませんと開き直る場面がありますが、
日本でも鬼子母神は子授け、安産、幼児養育の
守り神として各地で信仰されています。

なお、バーバリズム(人肉食)は、死体嗜好症
(ネクロフィリア)と結びついてヨーロッパ各地にも
多く、しばしば猟奇的な殺人事件が報告されますが、
一種の精神障害といわれます。

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