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2009.04.06

城木屋(しろきや) 落語

ここでいう「豆」は女性をさす隠語です。念のため。

日本橋新材木町の呉服屋・城木屋庄左衛門が死に、
後に後家のお常と、十八になる一人娘のお駒が残された。

お駒は界隈で評判の器量良しだが、
こともあろうにそのお駒に、醜男の番頭・丈八が邪恋を抱いた。

この男、四十四歳になるが、
背はスラッと低く、色はまっ黒けで、顔の表と裏がわからない、
という、大変な代物。

ところが当人は本気で、
お駒の婿は自分と一人決めをし、恋文を送りつけたが、
もちろん、お駒は無視。

それが、母親のお常の手に渡ってしまったので、
手ひどくしかりつけられ、どうせクビになるならば破れかぶれ、
いっそのことと、店の金五十両を盗み出して吉原で全部使い果たしてしまう。

この上は、お駒を殺して自分も死ねば、心中と言われて浮名が立つ
と、夜中にこっそりお駒の部屋に忍び込んだが、
寝顔を見て急に惜しくなり、さらって逃げようとゆり起こす。

承知したらよし、嫌と言ったら殺っちまおう
と、刀で頬っぺたをピタピタたたいたから、
お駒が目を覚まして悲鳴を上げる。

かわいさ余って憎さが百倍、
やっと突くと、狙いが外れて床板まで突き通してしまい、
抜けなくなって、そのまま刀と煙草入れの遺留品を残して逃走。

これから足がついて、丈八はお召し捕り。

お白州に引き出され、南町奉行・大岡越前守のお裁きを待つ身となった。

奉行に
「不届き至極な奴。娘駒とその方のなれ初めを申せ」
と尋問され、ごまかそうと
「十返舎一九の『東海道中膝栗毛』の挿絵を見ておりますと、
お駒さんが参りまして『これは何か』と聞きますので
『岡部の宿で夜這いに行くところです』
『夜這いとは何じゃ』『いずれ今宵』と、
それにかこつけて豆泥棒(夜這い)に参りまして」
「豆泥棒とは何じゃ」
「へえ、お駒さんは素人娘で白豆、商売女は黒豆で、
十二、三の小娘はおしゃらく豆、十五、六がはじけ豆、天人はソラ豆」

一喝されて
「娘御を駿河細工と思えども、籠の鳥にて手出しならねば」
という艶書の文句の意味を問われると
「もとの起こりが膝栗毛、もうとう海道から思い詰め、
鼻の下も日本橋、かのお駒さんの色、品川に迷いまして、
川さきざきの評判にも、あんないい女を神(かん)奈川に持ったなら、
さぞ程もよし程ケ谷と」
と東海道尽くしでしゃれるので、
奉行は
「その方、東海道を巨細(=詳しく)に存じおるが、生国はどこじゃ」
「へい、駿河のご城下で」
「うむ、ここな府中(不忠)者め」

日本橋新材木町の呉服屋・城木屋庄左衛門が死に、
後に後家のお常と、十八になる一人娘のお駒が残された。

お駒は界隈で評判の器量良しだが、
こともあろうにそのお駒に、醜男の番頭・丈八が邪恋を抱いた。

この男、四十四歳になるが、
背はスラッと低く、色はまっ黒けで、顔の表と裏がわからない、
という、大変な代物。

ところが当人は本気で、
お駒の婿は自分と一人決めをし、恋文を送りつけたが、
もちろん、お駒は無視。

それが、母親のお常の手に渡ってしまったので、
手ひどくしかりつけられ、どうせクビになるならば破れかぶれ、
いっそのことと、店の金五十両を盗み出して吉原で全部使い果たしてしまう。

この上は、お駒を殺して自分も死ねば、心中と言われて浮名が立つ
と、夜中にこっそりお駒の部屋に忍び込んだが、
寝顔を見て急に惜しくなり、さらって逃げようとゆり起こす。

承知したらよし、嫌と言ったら殺っちまおう
と、刀で頬っぺたをピタピタたたいたから、
お駒が目を覚まして悲鳴を上げる。

かわいさ余って憎さが百倍、
やっと突くと、狙いが外れて床板まで突き通してしまい、
抜けなくなって、そのまま刀と煙草入れの遺留品を残して逃走。

これから足がついて、丈八はお召し捕り。

お白州に引き出され、南町奉行・大岡越前守のお裁きを待つ身となった。

奉行に
「不届き至極な奴。娘駒とその方のなれ初めを申せ」
と尋問され、ごまかそうと
「十返舎一九の『東海道中膝栗毛』の挿絵を見ておりますと、
お駒さんが参りまして『これは何か』と聞きますので
『岡部の宿で夜這いに行くところです』
『夜這いとは何じゃ』『いずれ今宵』と、
それにかこつけて豆泥棒(夜這い)に参りまして」
「豆泥棒とは何じゃ」
「へえ、お駒さんは素人娘で白豆、商売女は黒豆で、
十二、三の小娘はおしゃらく豆、十五、六がはじけ豆、天人はソラ豆」

一喝されて
「娘御を駿河細工と思えども、籠の鳥にて手出しならねば」
という艶書の文句の意味を問われると
「もとの起こりが膝栗毛、もうとう海道から思い詰め、
鼻の下も日本橋、かのお駒さんの色、品川に迷いまして、
川さきざきの評判にも、あんないい女を神(かん)奈川に持ったなら、
さぞ程もよし程ケ谷と」
と東海道尽くしでしゃれるので、
奉行は
「その方、東海道を巨細(=詳しく)に存じおるが、生国はどこじゃ」
「へい、駿河のご城下で」
「うむ、ここな府中(不忠)者め」

【うんちく】

大岡政談の落語化

「今戸の狐」に登場した乾坤坊良斎(その項参照)が、
大岡政談に白子屋事件(次項参照)をからめて創作した
長編人情噺「白子屋政談」を落語化し、こっけい噺に
仕立てたものです。

落語としての作者(改作者)は不祥ですが、
「東海道五十三次」「名奉行」(または「評判娘」)
「伊勢の壷屋の煙草入れ」という題での三題噺として
作られたとも言います。

実録・白子屋の悲劇 その1

日本橋新材木町・稲荷新道の材木問屋・
白子屋庄三郎の娘・お熊は、
母親・お常の乱費のため傾いた店を立て直すため、
持参金五百両を当てにした両親によって
大伝馬町の大地主・川喜田弥兵衛の番頭・又四郎を
無理やり婿に取らされます。

又四郎は、身持ちが固いだけが取り得の、つまらない男。

いやでたまらないところに、店の番頭で、渋い中年男の
忠八にたらしこまれ、気が付けばお熊の腹は
ポコリン、ポコリン。

これでは店の信用に関わると、母親は、今度は又四郎を
離縁して追い出そうとしますが、
持参金がネックでそれもできません。

そこで、女中二人に手伝わせ、ある夜、
又四郎の寝首をかこうとして失敗。
関係者はあえなく、全員逮捕されました。

実録・白子屋の悲劇 その2

名奉行・大岡越前守さまのお裁きで、
享保12(1727)年2月25日、一審即決上告ヲ許サズ、
弁護人コレヲ付セズ、審理ハ公開セズ、の暗黒裁判で
判決が下ります。

母・お常は殺人未遂の主犯で死罪。
お熊と忠八は不義密通で死罪、ハリツケ。
女中二人は主殺し未遂で死罪、逆さハリツケ。
父・庄三郎は闕所(けっしょ)所払い。

お熊(23歳)は絶世の美女で、引き回しで
裸馬に乗せられ、千住・小塚原の刑場に向かう途中、
白無垢に黄八丈の小袖、首に水晶の念珠という
何とも色っぽい風情だったとか。

実録・白子屋の悲劇 その3

沿道を埋め尽くした野次馬連中。
ああ、もったいねえと生唾ゴクン。

これは、大岡越前が実際に裁いた数少ない事件で、
その後、浄瑠璃「恋娘昔八丈」や、
人情噺でのち黙阿弥の芝居にもなった「髪結新三」
などに脚色され、今にその名を残しています。

志ん生から歌丸まで

明治期では、三代目春風亭柳枝(1851-1900)の、
明治24年9月の速記が残ります。

「白木屋」「お駒丈八」の別題があります。

東海道尽くしの言い立てが聴かせどころで、
軽く、粋なパロディ噺なので、昭和に入っても
名人連が好んで取り上げ、
五代目古今亭志ん生、六代目三遊亭円生、
三代目三遊亭金馬らがよく演じました。

現在は、桂歌丸がレパートリーにしています。

志ん生のアブない「豆尽くし」

「東海道尽くし」と並んで、この噺は「豆尽くし」が眼目。

豆はもちろん、女性自身の隠語で、
五代目志ん生はこの部分だけを、
艶笑小咄として、独立して演じていました。

また、これも志ん生が得意にした「駒長」で、
「白子屋政談」の登場人物の名前が借用されています。

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