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2009.04.21

代脈(だいみゃく) 落語

19世紀初頭、寄席落語の草創期からあった古い噺だそうです。

江戸・中橋の古法家(漢方医)である尾台良玄は
名医として知られていたが、
弟子の銀南は、師に似つかわぬ愚者で色情者。

ある日のこと。

良玄が、病に伏せている蔵前の大店・伊勢屋のお嬢さまのもとに
代脈に行くよう、銀南に命じた。

銀南は、代脈を材木と聞き違え
「かついでまいりますか、しょってまいりますか」
と、尋ねるほどの間抜けぶり。

良玄「この間のこと、お嬢さまはどういう具合か
ひどく下っ腹が堅くなっておった。
しきりに腹をさすって、下腹をひとつグウと押すと、
なにしろ年が十七で」
銀南「へえ」
良玄「プイとおならをなすった。
お嬢さまがみるみるうちに顔が赤くなって恥ずかしそうだ。
そこは医者のとんちだ。
そばの母親に『陽気のかげんか年のせいで、
この四、五日のぼせて、わしは耳が遠くなっていかんから、
おっしゃることはなるたけ大きな声でいってくださいまし』
と話しかけて、お嬢さまを安心させた。
そんなことにならぬよう、下腹などさわるでないぞ」

良玄は十分に注意を与え、
銀南を若先生ということにして、代脈に行かせた。

銀南は伊勢屋でしくじりを重ねたあげく、
手、舌などを見る。

しまいには、お嬢さまの下腹を押してしまう。

「プイッ」

お嬢さまが、みるみる赤い顔に。

銀南は良玄をまねて
「どうも年のせいか四、五日耳が遠くなって」
と、やったはいいが、手代に
「大先生も二、三日前にお耳が遠いとおっしゃってましたが、若先生も」
といわれ、銀南は
「いけないとも。ちっとも聞こえない。いまのおならさえ聞こえなかった」

【うんちく】

大看板が好んだ「与太郎噺」

文化年間(1804~18)、寄席の草創期から
口演されてきたらしい、古い噺です。

銀南は医者見習いというものの、実態は
与太郎そのもので、昔から、ごく軽い与太郎物として
扱われ、前座・二つ目の修行噺でもあるのですが、
受けるネタだからか、大看板も多く好み、
現在もよく高座に掛けられます。

古くは明治45年の四代目柳家小三治(のち二代目
柳家つばめ、昭和2年歿)、初代柳家小せんの速記が
あり、戦後では六代目三遊亭円生、五代目柳家小さんの
大立者が音源を残しています。

中でも1981年4月、駒込・三百人劇場の
「志ん朝七夜」の高座で演じた故人・古今亭志ん朝の
「代脈」は圧巻。前代のどの師匠よりも、吹っ切れた
明るさとスピード感、冴えた舌耕で、客席を
笑いの渦に巻き込んでいます。

実話だった? 「屁の功名」

後半の屁の部分の原話は、室町後期の名医・
曲直瀬(まなせ)道三(1507-94)の逸話を脚色した
寛文2(1662)年刊「為愚癡物語」巻三の
「翠竹道三物語りの事」、さらにそれを笑話化した
元禄10(1697)年刊「露鹿懸合咄」巻二の「祝言」です。

後者は、道三がさるうつ病の姫君を診察した際、
姫が一発やらかしたので、音が自分の耳に入ったと
知ればいよいよ落ち込んで薬効もなくなると
機転を利かせ、耳が遠くなったので筆談で症状を
言うように仕向けて見事精神的ケアに成功、
本復させたというものです。

良玄の自慢話そのものですが、してみると
これは実話を基にしていることになります。

また、銀南が代脈に行かされる前半の原話は、
安永2(1773)年刊「聞上手」二編中の「代脈」です。

これは、あらすじでは略しましたが、銀南が
駕籠の中で寝込んでいるところを、病家の門口で
駕籠屋に起こされ、寝ぼけて「ドーレ」と言う
ギャグがあり、その部分のほぼそのままの原型です。

古法家って?

漢方医のことですが、特に、漢や隋代の
古い医学書に基づいて治療を行う、
保守的な学派の医者を指します。

これに対し、元代に起こった、比較的
新しい漢方医学を標榜する医者を後世家
(こうせいか)と呼びました。

中橋って?

現在の東京駅八重洲中央口あたりです。

昔はこのあたりに楓川の掘割があり、
日本橋の大通りと交差するところに中橋が
架かっていましたが、掘割が安永3(1774)年に
埋め立てられると同時に橋も廃され、一帯の
埋立地に中橋広小路町が形成されました。

中橋の橋詰は、寛永元(1624)年、猿若勘三郎が
初めて芝居の興行を許された、江戸歌舞伎
発祥の地でもあります。

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