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2009.05.29

羽織の遊び(はおりのあそび) 落語

遊びといえば、吉原が舞台。とはいえ、苦労するもんですね。

町内の若い衆が、キザな伊勢屋の若だんなをたらし込み、
タダでお遊びのお相伴をしようとたくらむ。

そこへ現れた若だんな、
さっそく吉原の自慢話をひけらかし始める。

「昨日は青楼(遊郭)へふけりまして」
と漢語を使うので、一同、牢に入ったと勘違いする始末。

「北国(きた=吉原)へ繰り込みまして、
初会でカクカイオイロウへ上がりました」

これは吉原の大見世・角海老(かどえび)楼のこと。

「ショカボのベタボで」

つまり、花魁(おいらん)に初会惚れのべた惚れされた、ということ。

二の腕をつねられたのが一時三十五分で、
ほっぺたが二時十五分、
明け方が喉笛と、いやに詳しいノロケぶり。

いいかげんあてられて、ぜひお供をと頼むと若だんな、
「では、これからセツ(=私)とご同伴願って、
ぜひご耽溺(たんでき)をくわだてましょう」
と、くる。

「おい、タンデキてえのを知ってるかい?」
「 うん。焼き芋みてえな形をして、塩をつけるとオツなもんだ」

いいかげんなことを言い合った末、若だんなが
「セツの上がる見世は大見世ばかりでゲスから、
半纏着(はんてんぎ=職人)を相手にいたしやせん。
ぜひとも羽織とおみ帯のご算段を願いとうございますな」

要するに、オレの顔にかかわるから、
羽織と帯だけは最低限着てこなけりゃあ連れていかねえ
という、ご意向。

そこで一時間の猶予をもらい、それぞれ羽織の調達に行く。

八五郎は出入り先のお内儀(かみ)さんのところに行き、
正直に「女郎買いのお相伴で」とわけを話したため、
祝儀不祝儀でないと貸せないとあっさり断られた。

あわてて、「ええ、その祝儀不祝儀でござんす。
向こうから祝儀、こっちから不祝儀で、どーんと突き当たって」
と、トンチンカンに言いつくろう。

冠婚葬祭のことだと教えられ、
「へえ、長屋でお弔いがございます」

誰が死んだかと尋ねられて答えにつまり、
屑屋の爺さんを勝手に殺してしまう。

「いつ死んだんだい?」
「ゆうべの十一時で」
「ばかをお言いでない。さっき鉄砲ざる背負って通ったよ」
「えっ、通った? ずうずうしい爺イだ」

困って、今度は洗濯屋の婆さんを殺すと、
たった今二階で縫い物をしている、という。

大汗をかいてようよう貸してもらい、集合場所へ。

一人は、帯の代わりに風呂敷でゴマかし、
別の男は、子供の羽織。

もう一人はふくらんだ紙入れを持ってきたが、
実は煉瓦を中に入れて、金があるように見せかけているだけ。

「こりゃご趣向でゲス。しかしそのふくらんだ具合は、
懐中が温かそうに見えますな」
「あったけえどころか、煉瓦だから冷えます。
途中で小便を二度しました」

【うんちく】

演者を選ぶ? 噺

原話は不詳で、文化年間から口演されてきた、
古い江戸落語です。

古い速記では、「羽織の女郎買ひ」と題した
二代目古今亭今輔のもの(明治22年11月)が現存します。

戦後では、三代目、四代目の春風亭柳好、
六代目三遊亭円生が得意にし、古今亭志ん朝も明るく、
スピーディな高座が絶品でした。

現役では、桂平治が演るほか、若手もぼつぼつ
手掛け始めてはいますが、演者はそれほど
多くはありません。

登場人物も多く、よほどの円滑洒脱な話芸
達人でないとこなせない、難しい噺だからでしょう。

六代目円生は「羽織」、七代目柳枝は「御同伴」と、
演題はまちまちです。

サゲはいろいろ

サゲのやり方はいくつかあって、八五郎が羽織の調達に
出かけるくだりを後半に回し、婆さんを「殺した」後、
嘘がばれて問い詰められ

「だれかそのうちに死にましょう」

とサゲるのが、現在では普通です。故人・志ん朝も
このやり方でした。

かってはこの続きがあり、若だんなに引率されて
遊びに出かけた後、食通を気取って、

「只今は重箱(うなぎ屋の老舗)の鰻でもねえのう」

と、後ろへそっくり返るのを教えられた男が、
そっくり真似してひっくり返るところで切るのが、
明治の今輔のサゲ。

また、「世界は妙でげす、不思議でげす」と言って
紙入れを出し、見せびらかせと若だんなに言われ、
その通りにしたら、懐のレンガが飛び出した、
というのもありました。

志ん朝のギャグ

志ん朝では、若だんなのノロケが抱腹絶倒。

一時には、マナコの中に熱燗の酒を注がれ、
二時には簪を鼻の穴に。

「先がのどのところから出やした」
「魚焼くのがうまいよそういう女は」

三時には、みぞおちの辺りを尻でぐりぐりっと。
明け方にはのど笛を喰らいつき……という次第。

また、八公が親分のかみさんに、遊びに行くんなら
羽織は貸せないと言われて興奮し、

「姐さんは女だからそんなこと言うんだよ。ねえ、
こっちゃあ男だよ。まして若えんだ。ええ、んとに。
からだア達者なんだしさ、ずっとここんところ
行ってねえんだよ。何だかイライライライラして
しょうがねえんだから。鼻血は出るしね。朝なんか
もう大変なんだから」

と、半泣きになるところなど、妙にリアルで生臭い
ところは、いかにもこの人らしい味でした。

ゲス言葉は上品でげす

「げす」などの通人ことばは、滑稽本や洒落本などに
江戸中期ごろから、頻繁に登場するようになりました。

自称の「セツ」などと並んで、半可通のエセ通人が
連発します。接尾語としては「げえす」というのが本来で、
「であります」の意味です。

噺家や幇間も日常的に使い、六代目三遊亭円生は
口癖のようにしていました。

明治以後になると、この噺や「酢豆腐」の若だんなのように
聞きかじりの漢語を交えたりもするので、
余計に分かりにくくなってきます。

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