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2009.05.27

蚤のかっぽれ(のみのかっぽれ)  落語

蚤がかっぽれを踊る、という珍品です。

年中馬の足ばかりやっている、下回り役者の家。

畳の隅っこを、蚤の母子がおそるおそる這(は)いずっている。

おっかさんは元気いっぱいのせがれに手こずり、
あのナフタリンという白い玉は毒ガスのようなもので、
匂いをかぐと脳貧血を起こして死んでしまうから近づくんじゃないよ
と、注意しているところ。

そこへ、この家の主人が、
ご機嫌でかっぽれを踊って、帰宅。

「沖の暗あいのォに白帆が見える。
あれは紀伊の国、エーヤレコレオッコレワイサノサ、みィかん船ェ」

蚤のせがれ、見ていておもしろくなり、
まねして、ピョンピョンかっぽれを踊り出す。

母蚤はあわてて、
あの男はおとうちゃんを親指でつぶして殺した。
おまえには親の仇(かたき)だ
と言うが、せがれは、もう上の空。

おっかさんの止めるのも聞かず、
近くで見物しながら仇討ちにたっぷりと血を吸ってきてやると、
畳の上に飛び出した。

「あ、かっぽれかっぽれ、甘茶でかっぽれ」
と、男は夢中。

やっと毛脛(けずね)に取りついたが、
足を取られてうまく血が吸えない。

そこで背中に回り、着物の縫い目にしがみつく。

ところが、そのうち男が、どうもシラフでは調子が出ないと、
一杯ひっかけに出かけたものだから、
蚤のせがれ、逃げ出すこともできず、
ベソをかいたまま、居酒屋まで運ばれていく。

こうなったら、覚悟を決めるしかしかたがない。

親の仇が腰を据えてチビリチビリやり出したので、
こっちもかっぽれがまた始まるまでチビチビやろうと、
縫い目からノソノソ這い出し、
背中を歩き回ったから、男はたまらない。

肌脱ぎになって着物を振ったので、
たちまち見つかって捕虜になってしまった。

「さあ、ちくしょう、いやがった。恐ろしく小せえ奴だ。
さんざっぱらオレの血を吸いやがって。握りつぶすから、そう思え」

「おじさん、かんべんしてよ」
「なんだ、そのおじさんてえのは」

そこで蚤のせがれ、大熱演で命乞い。

おふくろが心配するからと泣き落とし、
おまえんちにいるんだから家族の一員、
血液型も同じだとやってみたが、まるで効果なし。

そこで、かっぽれを踊れると言うと
「そいつは珍しい。そんな蚤なら銭もうけになるから殺さねえ。踊ってみろ」
「おじさん、一杯ひっかけなくちゃ踊れないよ」
「蚤にしちゃ、粋な野郎だ」

盃をやり取りしているうちに、人間も蚤もすっかりでき上がり、いっしょに
「沖ィのくらいのォにアヨイヨイヨイヨイヨイ」

「うーん、うめえもんだ。
小束にからげてちょいと投げたァ……おい、合いの手はどうした。
おい、蚤の小僧……しまった、ノミ逃げされたか」

【うんちく】

にわかに蘇った「骨董品」

原話は不詳で、本来はマクラ噺でした。

「蚤の歌」と題するときは、のみがかっぽれの
代わりに歌を歌い、サゲは、

「歌が聞こえなくなったと思ったら、ノミがノミつぶれだ」

と、やはりダジャレで落とします。

「かっぽれ」が滅びつつある現在、
まったく演じ手はない……と思いきや、
ベテランの吉窓、馬桜をさきがけに、
最近、やたらに若手が演り始めたようです。

ご同慶のいたりですが、はてどこで覚えたのかしらん?

甘茶でかっぽれ梅坊主

かっぽれは俗曲で、ルーツをたどれば、原型は
大坂・住吉神社が発祥の「住吉踊り」です。

上方では「やあとこせ」、江戸に伝わってからは
「やあとこさ」と呼ばれていました。

現在使われている、

♪かっぽれかっぽれ、沖の暗いのに白帆が見える……

の詞章は、江戸にみかんを運んだ紀伊国屋文左衛門を
称えるために作られたといいます。

かっぽれは「活惚れ」と書き、江戸ことばで
「かっぽれる」は、最高の賞賛です。

明治に入って、初代かっぽれ梅坊主が、より
洗練された踊りに仕上げました。

梅坊主(1854-1927、のち豊年斉、太平坊)は、
大正末年まで活躍。明治政府高官にも
贔屓の多かった人物です。

劇壇のドン、意地のかっぽれ

明治の劇聖にして劇壇の総帥・九代目市川團十郎が、
高尚な活歴(歴史劇)ばかり演じるのを批判され、
「かっぽれでも踊れ」と言われたことに反発。

河竹黙阿弥に「春霞月住吉(はるがすみ・つきも
すみよし)」という常磐津舞踊を作ってもらい、
梅坊主にも教えを受けて、その中で本式の
かっぽれを踊ってみせました。

これが大好評。明治19年1月、新富座初演でした。

これは、明治初年、浅草仁王門前が舞台。
官員の甘井官蔵が芸者連を引き連れて浅草見物に。
そこへ團十郎扮する大道芸人のかっぽれ升坊主が
浴衣がけ、ねじり鉢巻姿で登場。

住吉踊り、深川、かっぽれ、尻取り浄瑠璃、
豊年踊りとにぎやかに、こっけいな所作をまじえて
踊り分けるという趣向です。

現在でも大幅にカットし、まれに上演されます。

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