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2009.05.09

とろろん 落語

これも上方からやってきた音曲噺ですね。

無尽に当たって懐が温かい、
神田堅大工町の八五郎。

ひとつ伊勢参りでもして散財しよう
という気を起こし、
弟分の熊と文次を誘って、東海道を西へ。

途中、馬子とばかを言いながら毬子(丸子)宿までやって来る。

今夜の泊まりは一力屋という旅籠だが、
あいにく下で寄り合いがあるので、
しばらく二階座敷でご同座を願いたい
と頼まれる。

同宿は三人で、大坂者が一人に、
上州から出てきたという婆さん、
それに梅ヶ谷の弟子で梅干という相撲取り。

あいさつが済んだところへ女中が
「あんたがたハァ、毬子の名物をあがりますかな」
と、聞きにくる。

「なんだ」
と聞くと
「トルルルー」
とか。

「ばか野郎、毬子名物ならとろろ汁じゃねえか」
と、少しはもののわかった八五郎が教えたが、また
「マンマがバクハンでもようごぜえますか?」
と聞くので、そそっかしい文次が
「バッカラカン」
と聞き間違え、
「格好の悪い丼じゃねえか」
と思い込んで、ひと騒ぎ。

麦飯のお櫃は来たが、
いくら待ってもとろろが来ない。

二人が
「バッカラカンてやがって、
人を馬鹿にしてやがるから、下にケンツクを食わせよう」と怒るのを、八五郎が、寄り合いで忙しくて手がまわらないんだろう
と、なだめ、下で思い出すように、
なんでもトロトロとつく唄をうたって催促しよう、
と、提案する。

八五郎が甚句で
「トントンチリチリツンテントン、
泊まり合わせしこの家の二階、麦の馳走はよけれども、
なにもなくては食べられぬ、
なんで食べよぞこの麦を、押してけ持ってけ三段目」
とやると、
「押してけ持ってけ」
が悪く、せっかく来かかったのが戻されてしまう。

それでは、
と婆さんが、昔取った杵柄、巫女の口寄せ。

「慈悲じゃ情けじゃお願いじゃ、
どうぞ宿屋の女子衆よ、とろろを手向けてくださりませ」
「縁起でもねえ。手向けられてたまるか」

今度は大坂者に何かやってくれと頼むと、
これは浄瑠璃で
「デンデンデンチトンチン、チントンシャン、
シャンシャンジャジャジャ」
と、雌馬の小便のよう。

真っ赤にうなって、
「麦の馳走はよけれども、
おかずのうては食べられぬ。オオオオ」

とうとう泣きだす。

相撲取りが一人ゲラゲラ笑っているので、
「おめえもやらねえか」
と催促すると
「最前から面白うございました。
実はわしは相撲じゃありません」
「何だ?」
「祭文語りで」
「道理で小せえ相撲取りだと思った」

ほら貝と錫杖を前の宿屋に忘れたというので、
口だけで
「何でべよぞンガエこのン麦をエー、
おかずがのうては、ンガエ、食べンエンらンれンぬ、
お察しあれや宿屋のご主人、
何で食べよングエこのン麦をングエ」
とやると、主人がすり鉢を持って
「とろろんとろろん」

【うんちく】

東西で異なるサゲ

原話は不詳。上方の古い音曲噺「出られん」を
東京に移植したものです。

移植者や年代は分かりませんが、
大正3年6月、「文藝倶楽部」に掲載された
三代目古今亭今輔(1869-1924)の速記が残ります。

上方のサゲは、題名通り主人が下から「出られん」
と言うもので、浪花節の古型である「デロレン祭文」と
掛けた地口。一方、あらすじでご紹介したように
東京では、「デロレン」を「トロロン」と呼んだので
地口も丸子名物のとろろと洒落たわけです。

小南による復活と工夫

東京では長く途絶えていましたが、
戦後、故・二代目桂小南(1996年没)が大阪風の演出で
復活、十八番にしました。

小南では、隣の大尽風を吹かせる男に当てこするため
なぞ掛けで嫌がらせした後、祭太鼓の合いの手でとろろを催促。

隣をのぞくと、お大尽が「テントロロン」
と、頬かぶりでひょっとこ踊りを踊っていた、
という地(説明)のサゲを工夫しました。

小南没後は、再び後継者がいなくなっています。

祭文(さいもん)語りって?

祭文は浪花節の原型・古型で、上方では別名
「デロレン左衛門(祭文)」と呼ばれました。

もともと、祭のときに、独特の節回しで神仏に報告する
役割を担いましたが、山伏姿の門づけ芸人が
ほら貝と銀杖を伴奏に、街頭でデロレンデロレンと
うたい歩き、全国に普及したものです。

のちに芸能化して歌祭文になり、幕末に浪花節(浪曲)
へと進化をとげました。

口寄せって?

霊媒(れいばい)のことです。

「そもそも、つつしみ敬って申したてまつるは、
上に梵天、帝釈、四大天王……」

と、さまざまな神仏の名を唱えたのち、死者を
呼び出すのが普通の段取りでした。

婆さんの「とろろを手向けて下さりませ」は、
乗り移った亡者の言葉のもじりです。

甚句って?

おもに相撲甚句のことで、「錦の袈裟」にも登場しました。
都々逸と同じく、七七七五のリズムを持ちます。

丸子(毬子)のとろろ汁

丸子(毬子)は、東海道二十一番目の宿場で、
現・静岡市の内。名物のとろろ汁は、十返舎一九の
「東海道中膝栗毛」や芭蕉の句,

  梅若菜毬子の宿のとろろ汁

のほか、さまざまな道中名所記でおなじみです。

自然薯(じねんじょ)のとろろを味噌汁で溶くのが
特徴で、それを麦飯にかけて饗する質朴な味わいです。

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