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2009.05.15

泣き塩(なきしお)  落語

短い噺ですが、なぜか志ん生がやっていました。

若侍が、往来でいきなり若い娘に声をかけられる。

娘は田舎から出てきて、女中奉公をしているお花。

故郷の母親が病気で心配しているところへ、
田舎から赤紙付きの手紙がきたが、
自分は字が読めないので、どうか変わりに読んでほしい
という、頼み。

侍、さっと手紙に目を通すと
「あー、残念だ。手遅れであるぞ。
くやしい。無念じゃ。あきらめろ」

いきなり泣き出したから、お花は仰天。

母親が死んだと思い込み、
これもわっと泣き出した。

これを見ていた二人の町人、
あの二人は一つ屋敷に奉公する小姓と奥女中で
人目を忍ぶ仲だが、不義はお家のご法度、
ついにバレてお手討ちになるところを
奥さまのお情けで永(なが)の暇(いとま)になったんで、
女の方が男の胤(たね)を宿しちまって、
あなたに捨てられては生きていけませんからってんで泣くと、
男も、そんならいっしょに死のう、てんで泣いているんだ
と、勝手なことを言い合う。

そこへ通りかかったのが、
天秤を担いだ焼き塩売りの爺さん。

二人を見ると
「もしもし、若い身空でどうなすったんです。
あなたもまだお若いお武家さま。
あたくしにもあなたと同じくらいのせがれがおりますが、
道楽者で行方知れず。親の身で片時も忘れたことはありません。
無分別なことをしないで、手前の家にいらっしゃい。
決して悪いことは申しません」
と説教しながら、これも泣き出した。

あそこはきっと泣きどころかもしれねえ
と、二人が首をかしげていると、
お花のおじさんがやってきた。

事情を聞いて手紙を読んでみると、
お花の母親は全快し、許婚の茂助が年期明けで、
のれん分けしてもらって商売するので、
お花を田舎に呼んで祝言するという、めでたい知らせ。

お花は喜んで行ってしまう。
まだ侍が「残念だ、手遅れだ」
と泣いているので、伯父さんがわけを尋ねると
「それがしは生まれついての学問嫌い。
武芸は何一つ習わぬものはないが、字が読めない。
あのお女中に手紙を突きつけられ、
武士たる者が、読めぬとは申されぬ。
それで身の腑甲斐なさを泣いていたのじゃ」

そばで塩屋の爺さんもまだ泣いている。
「私はね、なにかあると、すぐ涙が出るたちでして」
「へえ、そうかい」
「へい、あたしの商売がそうなんです」

天秤棒を肩に当てると
「泣き塩ォーッ」

【うんちく】

塩屋って?

江戸時代、塩売りはおもに老人のなりわいでした。

この噺に登場する通り、塩を載せた浅いざるを二つ、
天秤で担って売り歩きます。

天秤ほか、商売道具はすべて借り物なので、
元手はかかりません。

焼き塩は、ニガリを多く含む赤穂塩などでは
雨の日などにべとべとになるため
軽くあぶってさらさらにしたもの。

別名を撓(いため)塩ともいい、
天文年間(1532~55)に、堺の塩商人・壷塩屋藤太郎が
初めて製造・販売したとされます。

現在でも、スーパーなどで普通に売っています。

後継者のない噺

志ん生は、この地味な噺をかなり淡々と
オーソドックスに演じていました。

前記の円右の速記では、女は京屋のお蝶という
上方女、場所が石町新道となっているほか、
最後に登場して手紙を読む人物は、円右では
町役の甚兵衛ですが、志ん生ではその時により
無名の人物になったりしました。

受けない、笑いの少ない噺なので、志ん生以後
これといった後継者は出ません。
上方では、桂米朝が手掛けています。

なお、「手紙無筆」はこの噺の別題ではなく、
本来まったくの別話です。

円馬、円右から志ん生へ

原話は安永4(1775)年刊の漢文体笑話本
「善謔隨訳」中の小咄です。

上方で「焼き塩」の題で演じられていたものを、
明治末、三代目桂文團治(1856-1924)の演出をもとに
三代目三遊亭円馬が東京に移植。

円馬よりはるかに先輩の初代三遊亭円右が
「当ずっぽう」の題でよく演じ、同人の死の前年、
大正12年の速記も残ります。

昭和初期には七代目三笑亭可楽が「塩屋」の演題で
速記を残しましたが、戦後は五代目古今亭志ん生の
独壇場。音源・速記とも、現在残るものは
ほとんど志ん生のものです。

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