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2009.05.16

なめる 落語

ちょっと色っぽいけど、怪談めいてて。奇妙な噺です。

猿若町の芝居が評判なので、久しぶりに見物しようとやって来たある男。

三座とも大入りで、どこも入れない。

ようやく立見で入れてもらい
「音羽屋、音羽屋ッ」とやっていると、
前の升席に十八、九のきれいなお嬢さんが、
二十五、六の年増女を連れて見物している。

年増女が男に
「あなたは音羽屋びいきのようですが、
うちのお嬢さまもそうなので、
よかったら自分たちの升で音羽屋をほめてやってほしい」
と、声をかけた。

願ってもないことと、ずうずうしく入り込み、
弁当やお茶までごちそうになって喜んでいると、
年増女が
「あなた、おいくつ」
と、聞く。

二十二と答えると、
ちょうど良い年回りだ、と思わせぶり。

聞けば、
お嬢さんは体の具合が悪く、
目と鼻の先の先の業平の寮で養生中だという。
そこで自然に
「お送りいたしましょう」
「そう願えれば」
と話がまとまり、
芝居がハネた後、期待に胸をふくらませてついていくと、
大店の娘らしく、大きな別宅だが、
女中が五人しか付いていないとのことで、ガランと静か。

お嬢さんと差し向かいで、酒になる。

改めて見ると、その病み疲れた細面は青白く透き通り、
ぞっとするような美しさ。

そのうちお嬢さんがもじもじしながら、
お願いがある、と言う。

ここだと思って、お嬢さんのためなら命はいらないと力むと、
「恥ずかしながら、私のお乳の下にあるおできをなめてほしい。
かなえてくだされば苦楽をともにいたします」
という、妙な望み。

「苦楽ってえと夫婦に。よろしい。
いくつでもなめます。お出しなさい」

お嬢さんの着物の前をはだけると、
紫色に腫れ上がり、膿が出てそれはものすごいものがひとつ。

「これはおできじゃなくて大できだ」
とためらったが、お嬢さんが無理に押しつけたから、
否応なくもろになめてしまった。

その「見返り」と迫った途端、
表でドンドンと戸をたたく音。

聞くと、本所表町の酒乱の伯父さんで、
すぐ刃物を振り回して暴れるから、
急いでお帰りになった方がいいと言うので、
しかたなく、その夜は引き上げる。

翌朝、友達を連れて、うきうきして寮へ行ってみると、
ぴったり閉まって人の気もない。

隣の煙草屋の親父に尋ねると、
笑いながら
「あのお嬢さんのおできが治らないので易者に聞くと、
二十二の男になめさせれば治るとのこと。
そこで捜していたが、昨日芝居小屋で馬鹿野郎を生け捕り、
色仕掛けでだましてなめさせた。
そいつが調子に乗って泊まっていく、と言うので、
女中があたしのところに飛んできたから、
酒乱の伯父さんのふりをして追い出した。
今ごろ店では全快祝いだろうが、
あのおできの毒をなめたら七日はもたねえてえ話だ」
と言ったから、哀れ、男はウーンと気絶した。

「おい、大丈夫か。ほら気付け薬の宝丹だ。なめろ」
「うへへ、なめるのはもうこりごりだ」

【うんちく】

宝丹って?

上野の守田治兵衛商店で
今も販売する胃腸薬です。

寮って?

別荘、下屋敷、隠居所、遊女の療養所
などの総称でした。

落語では、たいてい大店のお嬢さんが
恋わずらいのブラブラ病で、
向島の寮に隔離されます。

猿若町、業平

猿若町は現・台東区花川戸の北側。

いわゆる江戸三座の中村座、市村座、
守田座があったことで知られます。

江戸三座については、「淀五郎」をご参照ください。

業平は、現・墨田区吾妻橋三丁目の内。
昔も今も低湿地帯で、五代目古今亭志ん生ゆかりの
「ナメクジ長屋」で、落語マニアにはおなじみです。

類話「狸娘

前半が似た噺に「狸娘」があります。

男二人が、芝居で娘と女中に
声をかけられるくだりまでは同じですが、
後半は、浅草・花屋敷の常磐屋という料亭で
飲み食いした後、女中が
「先に帰りますが、今度は、両国亀沢町の
自分の実家にお嬢さんをお泊めするから、
ぜひ後から来てほしい」
と言うので、二人は据え膳だと大喜び。

約束の印にと懐中時計(いかにも明治!)を
持っていかれ、後で見ると紙入れもないので、
かたりだと気付いたときにはもう手遅れ。

しばらくして女が警察に挙げられ、
「あれは狸穴(まみあな)=現・東京都港区)の
狸娘のおきんという評判のワル」と聞かされて、
「道理で尻尾を出した」
と、サゲるものです。

エロ場面はなく、官憲をはばかった
「なめる」の改作と思われますが、はっきりしません。

こちらは明治中期に、初代三遊亭円左が演じましたが、
その後はすたれました。

ポルノそのものの演出も

演じようによっては、完全なバレ(ポルノ)に
なってしまう、キケンな噺です。

現に、明治期には、乳房ではなく
女陰をなめるやり方もあったとやら。

別題に「重ね菊」「菊重ね」がありますが
これは、音羽屋(尾上菊五郎)の紋の一つで、
同時にソノ方の意味も掛けているとか。

円生十八番

原話は古く、元禄4(1691)年刊の初代露の五郎兵衛著
「露がはなし」中の「疱瘡の養生」です。

明治の四代目三遊亭円生から、四代目橘家円蔵を経て
戦後は六代目円生が得意としました。

現在でも、円生一門によって継承されています。

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