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2009.05.10

とんちき 落語

「とんちき」とは「まぬけ」の意。奇妙な構成が笑わせます。

嵐の日なら廓はガラガラで、さぞモテるだろうと考えた男。

わざわざ稲光のする日を選んで、びしょ濡れで吉原へ。

揚がってなじみの女郎を指名、
寿司や刺し身もとってこれからしっぽり、
という、矢先に女が
「ちょいと待ってておくれ」
と、消えてしまう。

世の中には同じことを考える奴はあるもので、
隣の部屋で、さっきから焦れて待っている男、
女が現れると
「おめえ、今晩は客がねえてえからおらァ揚がったんだぜ。
いい人かなんか、来やがったんだろう」
と嫌み、たらたら。

「嫌だよ、この人は焼き餅を焼いて。
いい人はおまえさん一人じゃないか。
ほら、おまえさんの知ってる人だよ。
この間、朝、おまえさんが顔を洗ってたら、
二階から、楊枝をくわえて髭の濃い、変な奴が下りてきたろ。
足に毛が生えた、熊が着物を着ているような奴。
あいつが来ているんだよ」
「ああ、あのトンチキか」

隣の男、あんな野郎なら、と安心して、
花魁と杯のやりとりを始める。

そのうちに、花魁が
「だけどもね、いまチョイチョイと……」
と、わけのわからない言い訳をして、また消えてしまう。

前の座敷へ戻ると
「おめえ、今晩は客がねえてえから、おらァ揚がったんだぜ。
いい人かなんか、来やがったんだろう」
と、嫌み、たらたら。

「嫌だよ、この人は焼き餅を焼いて。
いい人はおまえさん一人じゃないか。
ほら、おまえさんの知ってる人だよ。
この間、おまえさんが顔を洗いに二階から下りてきたとき、
あたしが顔を洗わせてたお客があったろ。
あの目尻が下がった、鼻が広がったあごの長い奴。
あいつが来ているんだよ」
「ああ、あのトンチキか」

【うんちく】

鼻の円遊から盲小せんへ 1

原話は不明ですが、初代三遊亭円遊が
「果報の遊客」の演題で明治26年7月、
「百花園」に速記を載せています。

円遊のものは、同じ廓噺の「五人廻し」を
くすぐり沢山にくずしたようなもので、
文句を言う客に女郎が

「おまはんはあたしの亭主だろう。自分の
女房によけい客がつくんだから、いいじゃないか」

と、居直って膝をキュっとつねり、
隣の部屋に行ってまた、間夫気取りの男を翻弄。

「おまはんも甚助(焼餅)だねえ。奥に来てる奴は
知ってる人だよ。あの馬鹿が来てるんだよ」
「うん、あの馬鹿か」

とサゲた上、「両方で同じことを言っております」
と、余計なダメを押しています。

鼻の円遊から盲小せんへ 2

明治末から大正初年にかけ、これを粋にすっきり
まとめ、「とんちき」の演題を使い始めたのが、
近代廓噺のパイオニア、初代柳家小せんでした。

大正8年9月、その遺稿集として出た「廓ばなし
小せん十八番」に収録の速記を見ると、マクラで、
活動写真のおかげで近ごろは廓が盛らないなどと
大正初期の世相を織り込み、若い落語家(自分)が
なけなしのワリ(給金)を持って安見世に揚がり、

「部屋ったって廻し部屋、莨(たばこ)盆も
ありゃアしません。袂からマッチを出して煙草を
吸ひ始める、お女郎衆のお座敷だか田舎の
停車場だか分らない」

と、当時の寒々とした安見世の雰囲気を活写、
今に伝える貴重な風俗ルポを残しています。

鼻の円遊から盲小せんへ 3

小せんはさらに、花魁がいつまでも
向うを向いて寝ているので、

「こっちをお向きよ」
「いやだよ、あたしは左が寝勝手(寝やすい)なんだよ」
「そうかい、それじゃ俺がそっちへ行こう」
「いけないよ。箪笥があるんだよ」
「あったっていいじゃないか」
「中の物がなくならあね」

という小咄をマクラに振っています。

これは、小せんに直伝で廓噺を伝授された五代目志ん生が、
しばしば使っていたネタ。残念ながら志ん生自身の
「とんちき」の速記、音源はありません。

それにしても、小せんと志ん生の年齢差はたった七歳。
1973年、83歳まで長命した志ん生に比べ、36歳は、
早すぎる天才の夭折でした。

とんちきって?

生粋の江戸悪態ことばで、トンマ、間抜けの意味。

もとは「とん吉」と言ったのが、
いつの間にか音がひっくり返ったようです。

「しだらがない」が「だらしがない」に
転訛したように、誤用、またはシャレで
ひっくり返して使っていたのが、そのまま
定着してしまった例でしょう。

また、深川の岡場所(遊郭)で、ヤボな客を
「とんちき」と呼んだので、廓噺だけに
その意味も合体しています。

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