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2009.05.30

鼻ほしい(はなほしい) 落語

滑稽噺の珍品。他人の欠点をあざ笑う噺がたまにあるもんです。

手習の師匠をしている浪人。

女遊びがたたって悪い病気をもらい、
鼻の障子が落ちてしまった。

子供たちに素読の稽古をしても、言葉が鼻に抜け、
「みにゃひゃん、ぴゃんとおつくえにむがって。
やまははきがゆえにはっとからず」

これではわからない。

自然、表へ出ると人が顔をじろじろ見るような気がして、
恥じて昼間は外出もしないようになる。

心配した奥方は、
気晴らしに戸塚の親戚のところに四、五日保養に行くよう勧めた。

それも気散じによかろうと、
顔を隠して朝早く家を出て、
送ってきた奥方と品川で別れると、東海道を西へ。

道中で知りびともいないので、
気楽な旅を続けて鈴が森にさしかかった。

年をとった馬子(まご)に、
帰り馬なので二百文でいいから
と頼まれ、馬に乗ってよもやま話になる。

この馬子、年は六十一だというが、きれいに頭が禿げている。

そこで浪人、一句浮かんで
「はぎやま(禿山)のみゃえ(前)に
鳥居はなけれどもうひろ(後ろ)に
かみがひょっとまひまふ(ちょっとまします)」

馬子、なるほど江戸のだんなは違うと感心しながら、
浪人の顔をじろじろ。

「だんなァ、わしが一つ返歌すべえか。
けれども、怒っちゃいけねえよ」
「怒らんからやれ」
「山々に名所古蹟は多けれど、はなのねえのが淋しかるらん」

「やまやまにめいひょこへきはおおけれど、
はにゃのにゃいのが……うーむ、馬方、馬をとみろとみろッ」

浪人、恥をかかされて真っ赤になって怒った。

「それだから、怒っちゃだめと断ったでがす」
「だみゃれ、ぶひに対ひて不埒なことを言うやつ」

馬を飛び降り、そのまま駕籠(かご)に乗って家に引き返した。

怒りがおさまらず、驚く奥方に一件をぶちまけたが、
興奮のあまり、最後はフニャフニャと、
何を言っているか聞き取れない。

奥方、聞き終わると、
やにわに長押(なげし)の薙刀(なぎなた)をつかんで
「あなた、御免あそばせ」
と、外へ駆け出した。

「これ女房、血相変えていずれへみゃいる」
「知れたこと。後追っかけてあなたさまの仕返しを」
「へぐまい(急くまい)、雉も鳴かずば撃たれみゃい、
歌も詠ますば返歌もしみゃい」
「ちぇー、口惜しゅうございます」
「そちは口おひいか。わひは、はにゃが、ほひい」

【うんちく】

原話は間男噺

原話は、享保13(1728)年刊「軽口機嫌嚢」
巻二の「油断大敵」です。

これは、女房が不義密通の現場を亭主に踏み込まれ
仲裁が入った結果、命だけは助け、それ以外は
ご存分にということで話が決まります。

で、両人の鼻をそいだ後、

「心がら(行い)とは言いながら、さぞ口惜しかろう」
「いえ、口は惜しくありませんが、鼻が惜しい」

と、現行と同じまぬけオチになっています。

これも円生の逃げ噺

初代三遊亭円右の、明治44年の速記が残ります。

円右の叔父分で、円朝直門の最後の生き残りだった
三遊一朝老人から、若き日の六代目円生が直伝され
時々演じましたが、もちろん、「四宿の屁」「おかふい」
などと同様、客がセコなときに演る「逃げ噺」でした。

あまり後味がいいとは言えず、円生没後はあまり
演じ手はありませんが、差別云々はともかく、
梅毒で鼻がもげるということが、ほとんど皆無の
現代では、噺の実感が伝わらないからでしょう。

先代(八代目)雷門助六(1906-93)が、最後の
女房の言葉から、「口惜しい」の題で演じたのは
珍しい例で、他に「鼻の仇討」の別題があります。

シャバにおさらば、鈴が森

現・品川区南大井で、古くは山賊の巣として
知られましたが、江戸時代には何を置いても
慶安4(1651)年開設の処刑場で有名です。

江戸のタイバーンで、北の千住・小塚原とともに
公開処刑は市民の恰好のリクリェーション。

栄えある磔第一号は、あの丸橋忠弥。

「お七」「お七の十」「真景累ケ淵」「三人旅」
「本堂建立」など、多くの噺の舞台ですが、
そのものずばり「鈴が森」は、上方落語「崇禅寺馬場」の
改作で、東京では先代円遊だけが演じた珍品です。

鼻の障子って?

鼻腔を二つに分ける軟骨の美称(?)です。

そこに梅毒の病原体が侵入し、末期は腐って
鼻梁が落ちます。

 鷹の名にお花お千代はきついこと

は川柳の傑作で、夜鷹の女に鼻なしが多いのを
皮肉ったもの。「お花お千代」はもちろん
「お鼻落ちよ」の洒落です。

他に「夏座敷」などとも呼びましたが、
まあ、汚水処理場を「○○公園」などと
粉飾するようなもんでげしょう。

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