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2009.05.20

ねぎまの殿さま(ねぎまのとのさま) 落語

世間との乖離ぶりを笑う、「殿さま」もののひとつですね。

さるお大名が、庭の雪を眺め、急に向島の雪景色を見たくなった。

そこで、お忍びで、年寄りの側用人・三太夫だけをお供に、
本郷の屋敷を抜け出し、
本郷切通しから池之端仲町の、錦丹円という大きな薬屋の前に来て馬を止めると、
うまそうな匂いが漂ってきた。

このあたりは煮売屋が軒を並べていて、
深川鍋や葱鮪(ねぎま)を商っている。

ちょうど昼時で、
殿さま、空腹に耐えられず、
「あれへ案内いたせ」

鶴の一声で、
下郎の参る店でございます
と、三太夫が止めても聞かない。

縄のれんから入ると、
殿さまには何もかも珍しく、
「宮下」が大神宮さまの祭壇の下の席であると聞き、
その場で拍手を打ったり、
「床几(しょうぎ)を持て」と言いつけたりのトンチンカン。

床几の代わりに醤油樽に座らされ
「町人の食しているものは何じゃ?」

若い衆が答えたのが、早口なものだから、
殿さまには「にゃっ」と聞こえる。

「さようか。その『にゃー』を持て」
「へいッ、ねぎま一丁ッ」

ぐらぐらあぶった(煮た)のを見ると、
煮売屋の安い葱鮪だから、鮪も骨と血合いがついたまま。

殿さま、葱を一口かむと、熱い芯が飛び出して丸呑みし、
喉が焼けそうになったので、
「これは鉄砲仕掛けになっている」
と、びっくり。

酒を注文すると
「だりにいたしますか、三六にいたしますか?」

「だり」は一合四十文の灘の生一本、
「三六」は三十六文の並み。

だりをお代わりして、殿さますっかりご機嫌になり、
珍味であったとご満悦で、雪見をやめて屋敷へ帰る。

この味が忘れられず、何日かしてまた雪が降ると、
ご膳番の留太夫に「昼(食)の好みはニャーである」
とのお達し。

留太夫、何のことかわからないが、
ご機嫌を損ねればクビなので、聞き返せない。

首をひねった末、三太夫に聞いてやっと正体が判明したが、
台所では、鮪の上等なところを蒸かし、
葱もゆでて出したので、出てきたのは出し殻同然。

殿さまは
「屋敷のニャーは鼠色であるな。さぞ珍味であろう」
と口をつけたが、あまりのまずさに
「これはニャーではない。チユーである。ミケのニャーを持て」

また、わけがわからない。

「ミケ」とは葱の白と青、血合いの垢の三色だと
三太夫が「翻訳」したので、やっとその通りにこしらえると、
殿さまは大満足。

熱い葱をわざわざかみつぶして
「うむ、やはり鉄砲仕掛けだ。
ああ、だりを持て。三六はいかんぞ」

また三太夫に聞いて、瀬戸の徳利に猪口をつけ、
灘の生一本を熱燗で持っていくと、殿さまは喜んでお代わり。

「だりと申し、ニャーと申し、余は満足に思うぞ」
「ありがたきしあわせ」
「だが留太夫、座っていてはうもうない。醤油樽を持て」

【うんちく】

だりって?

八百屋や魚屋の符丁で、4、40、400のこと。
「だりがれん」だと45、450になります。

煮売屋って?

一膳飯屋のことです。

「煮売り」は上方から来た名称で、
元は、長屋の住人などが、アルバイトに
屋台のうどん、そばなどを商ったのが発祥です。

江戸では、元禄年間(1688-1704)に
浅草に奈良茶飯を食べさせる店ができたのが
本格的な飲食店、つまり煮売屋のはしりとか。

落語では「二人旅」にも登場します。

錦丹円って?

正しくは「錦袋円」(きんたいえん)、
俗称を「金丹屋」ともいいました。

元祖は了翁僧都という高僧で、
承応4(1655=明暦元)年、夢告によって
仁丹に似た錦丹円という霊薬の製法を授かり、
これを売って得た三千両余で、
現在の湯島聖堂の場所に漢文10(1670)年、
「勧学寮」という学問所兼図書館を建設しました。

大正年間まで残っていたその額は、
水戸光圀(黄門)の揮毫だったとか。

錦丹円の娘が不忍池の主の大蛇に見初められ、
池の中に消えたという伝説が残っていました。

池之端仲町って?

舞台になる池之端仲町は、
現在の東京都台東区上野二丁目。

この辺りは、古くは不忍池の堤でした。

上野広小路と地続きで、将軍家の直轄領なので、
お成りの際の警備の都合で本建築は許されず、
バラック同様の煮売屋が並んでいました。

なお、店を、上野・袴腰の土手と設定する
やり方もあります。

講談からの翻案

五代目立川談志(生没年不詳、明治初期~昭和初期)が、
講談から落語に翻案したといわれます。

講談では、殿さまは松江の雲州公(松平治郷、
「目黒のさんま」参照)で、煮売屋のおやじを
召抱えて料理番にするという筋立てです。

「おばあさん」今輔の十八番

昭和の新作落語のパイオニア的存在だった
五代目古今亭今輔(1898-1976)が
数少ない「古典落語」の持ちネタとして
十八番にしていました。

現在でもよく高座に掛けられますが、
客がセコなときに演る「逃げ噺」の
代名詞的存在です。

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