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2009.05.03

提灯屋(ちょうちんや)  落語

噺も、上方から東京にもってきたもの。滑稽噺の秀作です。

無筆が多かった昔の話。

町内でチンドン屋が、広告を配って歩いている。

長屋の連中、広告を見てやってきたと言えば
向こうで喜び、お銚子の一本も出すかも知れないと、
さっそく出かける相談。

ところがあいにく、
誰も字が読めず、何屋なのかわからない。

そば屋ならもっとのびた字を書きそうなものだし、
寿司屋なら握った字を書いてあるはず、
てんぷら屋か、はたまた中華料理か、
変わったところで、大阪ではすっぽんをまるというから、
こう字が丸まったところを見てすっぽん屋かしら、
いや、かしわ(鶏)料理屋だろうと、
食い意地が張って、片っ端から食い物屋の名前を並べ立てても
らちが明かない。

そこへ米屋の隠居が着たので読んでもらうと、
これが食い物ではなく、提灯屋の新規開店の広告。

一同がっかりするが、
「当日より向こう七日間は開店祝いとして、
提灯のご紋、笠の印等は無代にて書き入れ申し候。
柏町一丁目五番地、提灯屋ブラ右衛門」
と、あった。

万一、書けない紋があるときは、
お望みの提灯をタダでくれるというので、
「大きなことを抜かしゃあがる。
それなら証拠の広告を持って、
タダでもらってこようじゃねえか」
と、一座の兄貴分が計略を巡らす。

とても書けないような紋を言い立て、
へこましてやろうという算段だ。

まず一人目が、鍾馗さまが大蛇を輪切りにした紋を書いてみろと、
判じ物(謎かけ)で迫り、降参させる。

鍾馗(しょうき)さまは剣を持っていて、
うわばみを胴斬りにしたから、まっ二つに分かれて
片方がうわ、もう片方がばみ。
併せて、剣かたばみというわけ。

二人目は
「仏壇の地震てんだが、書けるか?」

仏壇に地震がくれば、りんもどうもひっくり返るから、
りんどう崩し。

これで、ぶら提灯を二つせしめた。

三人目は
「髪結床看板が湯に入って熱い」
という、妙な紋。

髪結床の看板はねじれていて、
熱いからうめろというので、合わせてねじ梅。

四人目は
「おめえだな、提灯をただくれるてえのは」
と、最初からもらったも同然というずうずうしさ。

この男のが長い。
「算盤の掛け声が八十一で、商売を始めて、
もうかったが持ちつけない銭を持って、急に道楽を始めた。
家に帰らないから嫁さんが意見がましいことを言う。
何言ってやんでえベラボウめ。男の働きだ。
ぐずぐず言うならてめえなんぞ出ていけってんで、
かみさんを離縁しちまった」
という、紋。

謎解きは、八十一は九九、
もうかったから利があり、これでくくり。
かみさんが去っていったから、
合わせてくくりざる。

出す提灯、出す提灯、
みんなタダで持っていかれた提灯屋、
もうなんとでも言ってきやがれ、とヤケクソ。

一方、町内は提灯行列。

そこへ、隠居までやって来た。

さあ、こいつが元締めかと、
提灯屋はカンカン。

隠居、よりによって一番高い高張提灯がほしい
と抜かす。
しかも二つも家まで届けろ
というから、念がいっている。

「で、紋だが」
「ほうら、おいでなすった。
鍾馗さまが大蛇を輪切りにして、仏壇の地震でもって、
八十一が商売始めて、もうかってかみさんを離縁したって言おうてんだろう」
「落ち着きなさい。私の紋は丸に柏だ」
「うーん、元締めだけあって、無理難題を言ってきやがる。
丸に柏、丸に柏と……あッ、わかった。すっぽんにニワトリだろう」

【うんちく】

提灯屋は技能集団

噺の中に「傘の印」とあるように、傘を合わせて
商っているところも多く、その場合、傘の形をした
看板に、「ちゃうちん」と記してありました。

詳しくは、「花筏」をご参照ください。

もちろん、この噺で分かるように、紋の染物屋も
兼ねた、三業種兼業のマルチ企業だったわけです。

判じ物って?

判じ物は、狭義では絵や文字から、隠された意味を
解かせるもので、現在の絵解きパズルに当たります。

ただ、単なるなぞなぞ、なぞかけを意味することもあり、
この噺で持ち込まれる難題は、そちらに当たります。

江戸っ子はシャレ好きで、地口、なぞかけなど、
さまざまなクイズを楽しみ、時には賭けの対象にしました。

代表的ななぞかけには、

 宵越しのテンプラ→揚げ(=上げ)っぱなし
 金魚のおかず→煮ても焼いても食えない
 やかんの蛸→手も足も出ない

などがあります。「宵越しのテンプラ」などは、
現在でも、エスカレーターが上りだけで、
下りがないビルなどに使えそうですね。

なお、最近河出文庫から復刊された、
三代目三遊亭金馬著「浮世断語」は、江戸っ子学の
宝庫で、こうしたなぞかけ、判じ物について
分かりやすく解説し、実例も豊富に載っています。

速記は「永谷園」の師匠だけ

落語としては上方が本家で、東京移植者は
三代目三遊亭円馬と言われますが、はっきりしません。

円馬から四代目柳家小さんを経て、
五代目小さんに継承されました。

現在、小さん一門を中心に演じられていますが、
手掛ける者は多くはないようです。

速記、音源とも、長らく五代目のものだけでしたが、
最近は柳家小三治、三遊亭小遊三のCDが出ています。

上方では、音源は故・露の五郎兵衛のが唯一のものです。

発掘された原話

原話は、ずっと不明とされていましたが、落語研究家・
武藤禎夫氏は、明和6(1769)年刊「珍作鸚鵡石」中の
「難題染物」を原型として挙げています。

これは、提灯屋は登場しませんが、大坂・嶋の内に
「難題染物」の看板を掲げる店があり、そこの主人が
無類の囲碁好き。今日も友人と碁盤を囲んでいるときに
「一つ足らん狐の一声」という紋の注文が来ます。
分からずに考え込むと、友人が、

「九曜の紋(大円の周りを八つの小円が囲む)なら十に
一つ足らず、狐の一声なら『コン』で、合わせて紺の九曜」

と、教えるという筋です。

紋を注文するのに、なぞかけで出すという趣向が、
確かに「提灯屋」の原話と思わせる小咄です。

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