« のっぺらぼう 落語 | トップページ | 蚤のかっぽれ(のみのかっぽれ)  落語 »

2009.05.26

にらみ返し(にらみがえし) 落語

五代目小さんの見せる落語として、有名でした。

「大晦日箱提灯は恐くなし」

長屋の熊五郎、貧乏暮らしで大晦日になると、
弓提灯の掛け取りがこわい。

家にいて責められるのが嫌さに、
日がな一日うろついて帰ると、
その間、矢面に立たされたかみさんはカンカン。

薪屋にも米屋にも、
うちの人が帰りましたら夜必ずお届けします
と、言い訳して帰したのに、
金策もしないでどうするつもりなんだい
と、責めたてる。

もめているところへ、その薪屋。
本日三度目の「ご出張」。

熊が「払えねえ」と開き直ると、
薪屋は怒って、「払うまで帰らない」と、すごむ。

熊「どうしても帰らねえな。
おっかあ、面に心張棒をかえ。薪ざっぽを持ってこい」

払うまで半年、そこで待っててもらうが、
飯は食わせねえから、遺言があったら言え、
しかたがねえから葬式ぐらいはオレが出してやる
と脅され、薪屋はあえなく降参。

おまけに、借金を払った(つもり)の受取まで書かされ、
「おい、十円札で払ったから、釣りを置いてけ」

一人やっと撃退したものの、
あと何人相手にしなきゃならねえか
と、熊はうんざり。

そのとき表で
「ええ、借金の言い訳しましょう」
という声。

変わった商売だが、
これはもっけの幸いと呼び入れると、
言い訳屋は
「どんな強い相手も追っ払ってごらんに入れます」
と、自信満々。

一時間二円だという。

どうにか小銭をかき集めて払うと、
言い訳屋「すみませんが、
ご夫婦で押入れに入っていていただきましょう。
クスリと一声を出されても、こっちの仕事がうまくいきませんから、
交渉中は黙っていただくよう」

しばらくすると、米屋。

「えー、熊さんは、親方はお留守で?」

見ると、見慣れない男が煙草を吸いながら、
無言でにらみつけるだけ。

何を聞いても返事をしない。
米屋はこわがって帰ってしまう。

次は酒屋。
同じようにすごすご退散。

また次は、高利貸の代理人で、那須という男。

「何ですか君は。恐ろしい顔だな。ご親戚ですか? 
おい君、黙っておってはわからん。無礼だね。君……」

何を言っても、ものすごい目でにらむばかり。

さすがの海千山千の取立人も、気味が悪くなって帰った。

喜んで熊が礼を言うと、ちょうど十二時を打った。

「時間が来ましたようで、これで失礼を」
「弱ったな。あと二、三人来るんだが、もう三十分ばかり」
「いや、せっかくですが、お断りします」
「どうして?」
「これから、自宅の方をにらみに帰ります」

【うんちく】

師走の弓提灯

弓提灯は、弓なりに曲げた竹を上下に引っ掛け、
張って開くようにしたものです。

小型・縦長で、携帯に便利なことから、
特に大晦日、商家の掛取りが用いました。

江戸の師走の風物詩ではありますが、
取り立てられる側は、さぞこれを見ると
肝が冷えたことでしょう。

これに対し、箱提灯は大型で丸く、
武家屋敷などで使われました。

上方落語を東京に移植

原話は、安永6(1777)年刊の笑話本「春●
(●=代の下に巾)」中の「借金乞」です。

これは、後半のにらみの場面の、そっくりそのままの
原型になっていて、オチも同じです。

もともと上方落語で、それを「らくだ」と同様
四代目桂文吾(1865-1915)から三代目
柳家小さんが移してもらい、東京に移植しました。

皮肉にも、大正以後は本家の大阪ではほとんど
演じ手がなく、もっぱら東京の柳派、
小さん一門の持ちネタになりました。

三代目小さんから七代目、八代目三笑亭可楽を経て
五代目小さんの十八番の一つでした。

前半の薪屋を撃退するくだりは「掛取り万歳」と同じで、
サゲはこれまた類話の「言い訳座頭」と同じです。

「見せる落語」の典型

「蒟蒻問答」と同じく、噺のヤマを仕種で
見せる典型的な「ヴィジュアル落語」です。

そのため、速記・音源とも少なく、CDは
五代目小さん、八代目可楽のものくらい。

速記となると、活字化されたものは七代目
可楽が「講談倶楽部」昭和9年1月号に
載せたもののみで、これは戦後の昭和56年12月に、
講談社から刊行された「昭和戦前傑作落語全集」に
復刻・収録されました。

本あらすじもこれを参考にしています。

|

« のっぺらぼう 落語 | トップページ | 蚤のかっぽれ(のみのかっぽれ)  落語 »

落語のあらすじ 」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/60017/45133990

この記事へのトラックバック一覧です: にらみ返し(にらみがえし) 落語:

« のっぺらぼう 落語 | トップページ | 蚤のかっぽれ(のみのかっぽれ)  落語 »