« 猫忠(ねこただ) 落語 | トップページ | にらみ返し(にらみがえし) 落語 »

2009.05.25

のっぺらぼう 落語

小勝が脚色した「終わりのない恐怖」。前半は有名ですね。

小間物屋の吉兵衛という男、
互いに碁が好きという縁で、
赤坂のさる殿さまの屋敷に出入りし、
大変ごひいきになっている。

今夜も商売かたがた、夜遅くまでザル碁を戦わせ、
ごちそうにもなって、いい機嫌での帰り道、
赤坂見附は弁慶橋のたもとにさしかかった。

提灯の明かりでふと見ると、
年頃十七、八で文金島田、振袖姿のお嬢さん。

堀の方へ向かって手を合わせているから、
これは誰が見ても身投げ。

喜兵衛、そーっと寄って帯をつかみ
「まあまあ、お待ちなさい。なんだね若い身空で。
どういうわけか話してごらんな」
「おじさん、こんな顔でも聞いてくれる?」

振り向いた娘の顔は……のっぺらぼう。

「ギャッ」
と、驚いた喜兵衛、夢中で逃げ出し、
四谷見附のあたりまで一目散に走ると、
ちょうど二八そば屋の灯が見えた。

やれうれしやと駆け込んで、
おやじにこれこれと話すと
「そりゃあ気持ちが悪うございましたでしょう。
ところで、だんなのご覧になったのはこんな顔で?」

ひょいと顔を上げると、そば屋の顔ものっぺらぼう。

喜兵衛、今度こそ本当に仰天し、
「ウウーッ」
と悲鳴を上げて、どこをどう走ったか、
やっとわが家に逃げ帰る。

ガタガタ震えながら、女房にまたかくかくしかじかと話をすると、
「まあ気味が悪いじゃないか。
碁に夢中になって遅くなるからそんな変なものを見るんだよ。
ところで、おまえさんの見たのっぺらぼうって、
こんな顔じゃなかったかい?」

見ると、今度はかみさんの顔がのっぺらぼう。

喜兵衛、気の毒にもう逃げる場がない。

「ウーム」
と一声、目を回してしまった。

「……ちょいとちょいと、起きなさいよ。どうおしだね。おまえさん」

気がつくと、女房が肩を揺すっている。
顔を見ると、ちゃんと目鼻が付いている。

ああ、悪い夢を見ていたか、夢でよかった
と安心して、聞いてみると、
おまえさん、昨日は風邪を引いたと言って、
一日中家で寝ていたじゃないか
と言うので、喜兵衛は、
では、やっぱりすべて夢、
と、いよいよほっと胸をなでおろし、
改めて一部始終を話すと
「何だねえ、私の顔がのっぺらぼうになったって? 
つまんなに夢だねえ。本当になったのかい? 
私の顔が。ンじゃあ何かい? こんな顔だったかい?」
と言うとまた、……のっぺらぼう。

哀れ喜兵衛、また目を回す。

「……ちょいとちょいと、起きなさいよ。どうおしだね、おまえさん」

また起こされる。
これが、ぐるぐる回りで、ずーっと続く。

【うんちく】

のっぺらぼう実録

水木しげる氏によれば、かつて和泉国(大阪府)に、
「白坊主」というのっぺらぼうが出没したよし。

落語では演出によりますが、女の姿で
「化物つかい」に登場。隠居に縫い物をさせられます。

「どっかから見てるんだねえ」

という、故・志ん朝のギャグが秀逸でした。

夢かうつつか、うつつか夢か

八代目文楽門下の俊秀で、早世が惜しまれた
六代目三升家小勝(1908-71)の作。

のっぺらぼう怪談は、民話がルーツで、
そば屋のおやじのくだりまでは「こんな顔」として、
小咄やマクラとしてよく使われます。

1992年8月21日、フジテレビ系列で放映された
オムニバス怪談ドラマ「むじな」で、
被害者の男を春風亭小朝、そば屋のおやじを
梅津栄がそれぞれ演じました。

小勝がその小咄を「終りなき恐怖」という
要素を付け加え、秀作に仕上げました。

惜しいことに、小勝没後はあまり演じ手がありません。
1966年、本人の最後の高座も、この噺でした。

【うんちく】

「ぬっぺらぼう」が正式

江戸では、目鼻口のない化物を言うときは
「ぬっぺらぼう」「ぬっぺらぽん」「ぬっぺっぽう」
と、呼びました。

そこから派生的に、とらえどころがない、
という意味が加わり、「ぬっぺらぽん」
「のっぺらぽん」は、単に頭が坊主できれいに
毛がないこと、さらには、うすぼんやりした
愚か者という意味にまで広がりました。

願人坊主がコミカルに踊る歌舞伎清元舞踊
「浮かれ坊主」の冒頭に、

「そもそもおいらがのっぺらぽんのすっぺらぽん、
すっぺらぽんののっぺらぽんと坊主になった、
いわく因縁聞いてもくんねえ」

という文句がありますが、
案外、ぬ(の)っぺらぼうという妖怪も、暗い夜道で、
願人坊主や按摩を化物と見間違えたのが
「都市伝説」化したのかも知れません。

|

« 猫忠(ねこただ) 落語 | トップページ | にらみ返し(にらみがえし) 落語 »

落語のあらすじ 」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/60017/45123289

この記事へのトラックバック一覧です: のっぺらぼう 落語:

« 猫忠(ねこただ) 落語 | トップページ | にらみ返し(にらみがえし) 落語 »