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2009.05.06

胴取り(どうとり) 落語

他人の不幸を笑う、江戸っ子のいやらしさ、ですね。

露天博打ですってんてんにされた職人。

寒さにふるえ、
「ついてねえ」
と、ぐちりながら
「土手は寒かろォォ」
と、自棄で都々逸をうなって道を急いでいると、
ふいに
「それへめえる町人、しばらく待て」
と、呼び止められる。

驚いて、暗がりをすかして見ると、大柄な侍。

むかっ腹が立って
「何の用だか知らなえが、江戸は火事早えんだ、
とんとんやっつくれ」
と、まくしたてると
「身供は今日、国元より初めてまかり越した。
麹町へはどうめえるか、教えろ」

男、田舎侍と侮って八つ当たり気味に
「この野郎、おおたばなことォぬかしゃあがって。
どうでもめえれ。東ィ行ってわからなきゃあ西、
西で知れなきゃ北、東西南北探せ。どっか出らあ。
ぐずぐずしやがると、たんたんで鼻かむぞ」
「無礼を申すと手は見せんぞ。
長いのが目に入らんか。……二本差しておるぞ」
「てやんでえ田子作め。
見せねえ手ならしまっとけ。
手妻使いじゃあるめえし、そんな長いもんが目に入るか。
二本差しがどうしたんでえ。
二本差しがこわくて田楽で飯が食えるか。
気のきいた鰻なんぞァ四本も五本もさしてらァ。
まごまごしゃあがると引っかくぞ」

いきなり痰と唾をひっかけた。
これがご紋どころへ、べっとり。

侍、堪忍袋の緒が切れて
「おのれ無礼者ッ」
と、長いのをすっと抜く。

さすがに驚いて、
ばたばたと逃げてかかると、追いかけた侍、
「えいっ」
と、掛け声もろとも居合いでスパッと斬り、
あっという間に鞘に納めると、
謡をうたって行ってしまった。

男、
つらァみやがれ
と、悪態をついているうちに、何だか首筋がひんやり。

首がだんだん左回りに回ってずれてくる。

そのうち完全に真横を向き、息が漏ってきた。

野郎、いったい何しゃあがったか
と、首筋をしごくと赤い血がベットリ。

「野郎、斬りゃあがった」
と、慌てて下を向くと、途端に首は前に転げ、
胴体だけが掛け出し、橋を渡ったところでバッタリ。

そこへ、威勢よく鼻唄をうなった男が来かかる。

酒が入って懐が温かいらしい。
首だけで見上げると、友達の熊。

いきなり声をかけられたが、
姿が見えないのでキョロキョロ。

「どこにいるんだ?」
「足もと」

見ると首だけがどぶ板に乗っかって、しゃべっている。

「どうしたんだよ。
……おやおや、だから言わねえこっちゃねえ。
くだらねえサンピンにかかわるなって。
で、胴はどうした? 橋向こう? そりゃ、てえへんだ」

熊が今日は博打の目が出て、
二、三十両もうかったと自慢すると、
首が五両貸してくれ
と、頼む。

「そらあ、友達だから貸さねえもんでもねえが、
その金でどうしようってんだ?」
「へへっ、橋向こうに胴を取りに行く」

【うんちく】

クビが飛んでも、動いてみせるわ

前半は「首提灯」と同じで、原話は
安永3(1774)年刊の笑話本「軽口五色帋」中の
「盗人の頓智」ほかの小咄です。

詳しくは「首提灯」をご参照ください。

江戸落語と思いきや、噺としては上方種で、
長く大阪で活躍した三代目三遊亭円馬が
東京に移植した「逆輸入噺」です。

戦後は、三代目三遊亭小円朝が持ちネタに
しましたが、ポピュラーな「首提灯」と
前半がほとんど同じなので、小円朝没(1973)
後はほとんど演じられません。

一つには、「館林」「首提灯」と同様に
首を斬られてもしゃべるという奇想天外さを
持ちながら、斬られてからのセリフが
長すぎるため、せっかくの新鮮な印象が
薄れてしまうということも、あるのでしょう。

おおたばって?

「この野郎、おおたばなことォぬかしゃァがってェ」

と、タンカの先陣を切りますが、おおたばは
「大束」で、本来は、並々でないことを
安易に安っぽく扱うこと。ところが、どこかで
意味の誤用が定着したのか、それと正反対の
大げさなこと、という意味に変わりました。

さらにそこから、ゴーマン、尊大、横柄、
大言壮語という意味がついたのですから、
ややっこしいかぎりです。

この場合は悪態ですから、当然第二の意味ですが、
「もっとご丁寧に頼むのが礼儀なのに、
町人と侮って、安易にぬかしゃあがって」
という意味にも取れなくはありません。

蛇足ながら、ネイティヴの発音では、
「おおたば」の「ば」は、「ば」と「ぼ」の
中間の破裂音です。

胴取りって?

バクチで親になることで、サゲは、もちろん
それと掛けた洒落です。

「浅黄裏」は嘲笑の的

「棒鱈」「首提灯」を見ても分かりますが、
ご直参の旗本には一目置いていた江戸っ子も
「浅黄裏」と蔑称する田舎侍は、蔭では犬ころ扱い。

江戸勤番ともいい、参勤交代で藩主について
国許から出てきた藩士です。

同じ藩中でも、江戸詰めの者は、中には江戸の
藩邸で生まれ、勤務はずっと在府で、国許を
知らないことさえあったのですから、
その立ち居振る舞いや意識の乖離は、相当のものでした。

江戸勤番でも、立返りといってそのまま引き返す者と、
藩主の在府中、江戸に留まる者とに分かれていました。

しかし、やがてその浅黄裏どもに完膚なきままに
やられ、江戸を占領・蹂躙されてしまったのですから
ベランメエも、口ほどにもありません。

露天博打って?

野天丁半ともいい、ほとんどイカサマでした。
江戸では、浅草の大鳥神社境内が本場。

円朝・作「怪談牡丹燈篭」の伴蔵のタンカ、

「二三の水出しやらずの最中、野天丁半ぶったくり」

は有名で、水出しも最中も露天博打の種類です。

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