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2009.05.04

突き落とし(つきおとし)  落語

「居残り佐平次」「付き馬」とこれを合わせて「廓噺の三大悪」だとか。

町内の若い者が集まって
「ひとつ、今夜は吉原へでも繰り込もう」
という相談。

ところが、そろいもそろって金のない連中ばかり。

兄貴分が悪知恵をめぐらし、
一銭もかけずに飲み放題の食い放題、という計画を考えだす。

作戦決行。

兄貴分が大工の棟梁に化け
「いつも大見世でお大尽遊びばかりしているので
飽きちまったから、たまには小見世でこぢんまりと遊んでみたい」
などと大声で吹きまくり、
客引きの若い衆の気を引いた上、一同そろって上がり込む。

それから後は、ドンチャン騒ぎ。

翌朝になって勘定書が回ってくると、
ビールを九ダースも親類へ土産にするわ、
かみさんが近く出産予定の赤ん坊用にたらいまで宿の立て替えで届けさせるわで、
そのずうずうしさにさすがの「棟梁」も仰天した。

ニセ棟梁が留公に
「勘定を済ますから昨日てめえに預けた紙入れを出せ」
という。

この男、実はこれから殴られたうえ
「バカだマヌケだ」と言われなくてはならない、
一番損な役回り。

てめえは役者の羽左衛門に似ているから、いい役をやるんだ
とおだてられ、しぶしぶ引き受けたが、
頭におできができているので、内心びくびく。

留公が筋書き通り
「実は姐さんに『棟梁は酔うと気が大きくなる人だから、
吉原へでも行って明日の上棟式に間に合わないと大変だから、
お金は私に預けておくれ』と頼まれたので、金は持っていません」
と答えると、待ってましたとばかりに
「なんだと、てめえ、俺に恥ィかかせやがって」
と、ポカポカ。
留公、たまらず
「だめだよ兄貴。こっち側をぶってくれって言ったのに」
と口走るのを聞かばこそ、ポカポカポカポカ。

そこでなだめ役が
「この留はドジ野郎ですからお腹も立ちましょうが、
ここはわっちらの顔を立てて」
とおさめ、若い衆には
「こういうわけで、これから棟梁の家まで付いてきてくれれば、
勘定を払うばかりか、
おかみさんは苦労人だから祝儀の五円や十円は必ずくれる」
と、うまく持ちかけ、付き馬に連れだす。

途中、お鉄漿溝(はぐろどぶ)で
「昨夜もてたかどうかは小便の出でわかるから、
ひとつみんなで立ち小便をしよう。
若い衆、お前さんもつき合いねえ」

渋るのをむりやりどぶの前に引っ張っていき、
背中をポーンと突いたから、
あわれ若い衆はどぶの中へポッチャーン。

その間に全員、風を食らって一目散随徳寺。

「うまくいったなあ」
「今夜は品川にしようか」

【うんちく】

三木助十八番、決まらないサゲ

原話は不詳で、文化年間(1804-18)から伝わる
生粋の江戸廓噺です。

大正期には、初代柳家小せんの速記が残り、
戦後では三代目桂三木助(1903-61)の十八番。

故・春風亭柳朝も得意にしましたが、ともに
速記のみで音源はなく、珍しく六代目三遊亭円生が、
1966年5月にTBSラジオで演じた音源のみが、
現在CD化されています。

現在では、柳家三三ほか、若手も演じるようになり、
復活の気配があるようです。

サゲは、三木助が「泥棒だな、おい」と加えて
悪らつさを薄めたり、一人が遅れて戻り、

「いい煙草入れだから、惜しくなって抜いてきた」

とするものもありますが、どれも決め手を
欠き、いまだに決定的なものはありません。

本あらすじのは、初代小せんのものを採りました。

上方版「棟梁の遊び」

異色なのは、大阪の故六代目笑福亭松鶴が演じた
「棟梁の遊び」で、これは、舞台を松島遊郭に
移した、東京の「突き落とし」からの移植版。

昔から、大阪→東京の移植は無数にはあっても、
逆は珍しい例です。移植者や時期は不詳ですが、
こちらはサゲが東京の「大工調べ」のをいただいて

「大工は棟梁、仕上げをご覧じ」

という、ダジャレオチになっています。

廓噺の三大悪?

評論家・飯島友治氏は、「突き落とし」「居残り
佐平治」「付き馬」を、後味の悪い「廓噺の
三大悪」と呼んでいますが、落語に道徳律を
持ち込むほど、愚かしいことはありません。

ただ、「黄金餅」のようなアナーキーな噺を
得意にした五代目古今亭志ん生は、この噺だけは
「あんな、ひどい噺は演れないね」と言って
生涯、手掛けませんでした。

志ん生は若き日、初代小せんに廓噺を直伝で
みっちり伝授されていて、「突き落とし」も
当然教わっているはずですが、「ひどい噺」
と嫌った理由は、今となっては分りません。

吉原への愛着から、弱い立場の廓の若い衆を
ひどい目に合わせるストーリーに義憤を感じたか、
または、小見世の揚代を踏み倒すような
ケチな根性が料簡ならなかったか。

さて、どうでしょう。

小見世って?

下級の安女郎屋ですが、一応店構えを持っている
ところが、さらにひどい「ケコロ」(「お直し」参照)
などの私娼窟と違う点です。

大見世と違い、揚代が安い分、必ず前払いで
遊ばなければならない慣わしなので、この噺では、
苦心してゴマかさなければならないわけです。

お鉄漿溝って?

「おはぐろどぶ」と読みます。

最後に若い衆が突き落とされる水路ですが、
吉原遊郭の外回りを囲むよう掘られた
幅二間(約3.6メートル)のみぞです。

通説では、遊女の逃亡(廓抜け)を防ぐため
掘られたといいます。

女郎が、歯を染めた鉄漿(かね)の残りを
捨てたので、水が真っ黒になったのが
名前の由来ということです。

鉄漿は、鉄片を茶や酢に浸して酸化させた
褐色の液体に、五倍子粉(ふしこ)という
タンニンを含んだ粉末を混ぜたものです。

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