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2009.06.07

富士まいり(ふじまいり) 落語

今ではあまり聴かない噺です。

長屋の連中、日ごろの煩悩を清めようというわけで、
大家を先達(せんだつ=引率者)にして、
ぞろぞろと富士登山に出かけた。

五合目まで来ると全員くたくた。

そのうちにあたりが暗くなってきた。

「これは、一行の中に五戒を犯した者がいるから、
山の神さまのお怒りに触れたんだ。
一人一人懺悔(ざんげ)をしなくちゃいけねえ」
ということになって、
一同、天狗に股裂きにされるのがこわくて、
次々と今までの悪事を白状する。

出るわ出るわ。留さんは湯へ行った時、
自分の下駄が一番汚いので、上等なのをかっさらい、
ついでに番台から釣り銭をありったけ懐に入れて逃げた、偸盗戒。

八五郎は、屋台で天ぷらを二十一食ったが、
おやじに「いくつ食った」と聞くと、
親父は間違えて「十五だ」と答えたので、
差し引き天ぷら六つ偸盗戒。

先達さんがひょいと見ると、
貞坊が青くなり震えている。

聞いてみると
「粋ごと戒でェ」

要は邪淫戒だとか。

それも人のかみさんと。

おもしろくなってきた。

貞坊の告白が始まる。

去年の六月ごろから最近までのことだ。

女湯の前を通ったら湯上りの年増にぞっこん。
跡をつけたら二丁目の新道の路地へ。
その裏でまごまごしていたら、女が手桶さげてやってきた。

「井戸端の青苔に足をすべらすといけやせんから」
と、代わりに水をくんであげ、
その後はお釜を焚きつけ、米を洗ってまるで権助。

そんなこんなで、お茶を飲んだり堅餠をかじったりの仲に。

このおかみさんを口説こうとしたが
なかなか「うん」と言わない。

結局、今日まで「うん」と言わない。

先達「なんだ、つまらねえ。いったいどこの女だい」
貞坊「いいのかい」
先達「いいよ、言っちまいな」
貞坊「先達さん、お前さんのだ」
先達「とんでもねえッ」

元さんも青ざめている。

大便をがまんしているという。

「半紙を五、六枚敷いてその上に足して、四隅を持って谷へほうるんだ」
と、先達が勧めるので、念仏を唱えながら用を足し
「もったいない、もったいない」
と、この半紙を袂に入れてしまった。

先達「自分の大便を袂に入れる奴があるか。おめえ、山に酔ったな」
「へえ、ここが五合目でございッ」

【うんちく】

なつかしの柳朝節

原話は不詳。明治34年の初代三遊亭円遊の
速記が残ります。

昭和初期には七代目三笑亭可楽、戦後では三代目
三遊亭小円朝、故人・三笑亭夢楽と、どちらかといば
地味な、腕っこきの噺家が好んで演じました。

印象深いのは故・春風亭柳朝で、独特の
ぶっきらぼうな口調が、間男(近年では熊五郎)の、
神をも恐れぬふてぶてしさを表現して逸品でした。
残念ながら、音源は残っていません。

サゲは、現行では「先達つぁんお前のだ」で
切ることが多く、こちらの方がシャープでしょう。

前半のザンゲの内容は、演者によってまちまちです。

本当はマジメな富士登山

富士は古くから修験道の聖地で、一般人の入山は
固く禁じられていましたが、室町後期から民間でも
富士信仰が盛んになり、男子に限り、一定の解禁
期間のみ登山を許されるようになりました。

江戸時代には「富士講」と呼ばれる信者の講中が
組織され、山開きの旧暦六月一日から七月二十六日まで
約二ヶ月間、頂上の富士浅間神社参拝の名目で
登山が許可されました。

あくまで信仰が目的で、命がけの神聖な行事なので、
大山参りのようなリクリェーション、物見遊山半分とは
わけが違い、五戒(妄語戒、殺生戒、偸盗戒、邪淫戒、
飲酒戒)を保つのは当然。

したがって、この噺のようなお茶らけた連中は論外で、
必ずや神罰がくだったことでしょう。

江戸市中は「ニセ富士」だらけ

富士登山は大変な行事で、それこそ一生に何度も
ないというほど。山伏でもない一般市民が、近代的
登山装備もなく、富士山頂上に登ろうというの
ですから、それこそ生還すら保障されません。

そこで、江戸にいながらお手軽に、危険もなく
金もヒマも要らず、富士登山の疑似体験をしたいという
熱望に応え、こしらえたのがミニ富士山。

富士塚、お富士さんと呼ばれたこの小ピラミッド、
高いものでも「標高」わずか十メートル程度ながら、
どうして、形は本格的な「ミニチュア」でした。

頂上には当然、富士浅間神社を勧請。遥々本物の
富士から溶岩を運んで築き、つづれ折りの「登山道」
までこしらえる凝りようでした。

富士開きの旧暦六月一日に同時に解禁。富士講の
連中が金欠で本物に登れないとき、富士塚に
「代参」で済ませることも多く、登山のしきたりは
「女人禁制」を含め、本物とほとんど同じタテマエ。

最初のニセ富士は、安永8(1779)年に、現在の
早稲田大学構内に築かれた「高田富士」。目黒の
元富士(文化9=1812年)、新富士(文政2=1819年)
も有名で、こちらは広重の「江戸名所百景」にも
描かれています。

最盛期で東京二十三区内に三十余も作られ、現存
するのは高田富士、江古田富士など「十峰」ほどです。

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