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2009.06.12

棒鱈(ぼうだら) 落語

「首提灯」「胴取り」と並び、江戸っ子の痛快なタンカが聴きどころ。

江戸っ子の二人連れ。

料理屋の隣座敷で、
鮫塚という田舎侍が大騒ぎする声を、苦々しく聞いている。

ついさっきまで
「琉球へおじゃるなら草履ははいておじゃれ」
などという、間抜けな歌をがなっていて、
静かになったと思ったら、芸者が来たようすで、隣の会話が筒抜け。

芸者が
「あなたのお好きなものは」
と聞くと
「おいどんの好きなのは、エボエボ坊主のそっぱ漬、赤ベロベロの醤油漬けじゃ」

エボエボ坊主がタコの三杯酢で、
赤ベロベロがマグロの刺し身ときたから、

「おい、聞いたかい。あの野郎の言いぐさをよ。マグロのサムスだとよ。
……なに、聞こえたかってかまうもんか。あのばかッ」

大声を出したから、侍が怒るのを芸者がなだめて、
「三味線を弾きますから何か聞かせてちょうだい」
と言うと、侍は
「モーズがクーツバシ、サーブロヒョーエ、
ナーギナタ、サーセヤ、カーラカサ、タヌキノハラツヅミ、
ヤッポコポンノポン」
と、歌い出す。

「おい、あれが日本の歌かい」
と、あきれかえっていると、今度は
「鳩に鳶に烏のお犬の声、イッポッポピーヒョロカーカー」
「おしょうがちいが、松飾り、にがちいが、テンテコテン」

気短な方がもうがまんがならなくなって、
「隣座敷のテンテコテンがどんなツラあしてるか、ちょいと見てきてやる」
と、相棒が止めるのも聞かずに出かけていく。

廊下からのぞこうとしたが、酔っているからすべって、
障子もろとも突っ込んだ。

驚いたのが田舎侍。

「これはなんじゃ。人間が降ってきた」
「何ォ言ってやがるんでえ。てめえだな。
さっきからパアパアいってやがんのは。酒がまずくならあ。
マグーロのサスム、おしょうがちいがテンテコテンってやがら。ばかァ」
「こやつ、無礼なやつ」

「無礼ってなあ、こういうんだ」
と、いきなり武士の面体に赤ベロベロをぶっかけたから
「そこへ直れ。真っ二つにいたしてくれる」
「しゃれたこと言いやがる。さ、斬っつくれ。
斬って赤くなかったら銭はとらねえ西瓜野郎ってんだ。
さあ、斬りゃあがれッ」
と、大げんか。

ちょうどそこへ料理人が、客のあつらえの鱈もどきができたので、
薬味の胡椒を添えて上がろうとしたところへ、けんかの知らせ。

あわてて胡椒を持ったまま
「まあ、だんな、どうかお静かに。
ま、ま、親方。後でお話いたしますから」
と、間へ入ってもみ合ううちに、胡椒をぶちまけた。

「ベラボウめ、テンテコテンが、ハックション」
「ま、けがをしてはいけませんから、ハックション」
「無礼なやつめ。真っ二つにいたしてくれる。それへ、ハックション」
「まあまあ、みなさん、ハックション」
とやっていると侍が
「ハックション、皆の者、このけんかはこれまでじゃ」
「そりゃまたどうして?」
「横合いから胡椒(故障=邪魔)が入った」

【うんちく】

代々、小さん系に継承

原話は不詳で、生粋の江戸落語です。

柳派(柳家小さん系統)に伝わる噺で、
戦後では、ラジオ放送中に倒れて急死した
八代目春風亭柳枝(1905-59)が
得意としていました。

五代目小さんもよく演じ、その門下の
現・柳家小三治、さん喬も継承して
持ちネタにしています。

CDは、小さん一門のほか、珍しいところでは
志ん生門下の故・金原亭馬の助のものがあります。

タンカ(だけ?)が売り物の噺

「浅黄裏」「サンピン」などと江戸っ子に
蔑まれた勤番の田舎侍については、「首提灯」
「胴取り」をご参照ください。

この噺の侍は薩摩藩士のようですが、
落語では、特にそれらしくは演じません。

「首提灯」同様、江戸っ子が痛快なタンカで
田舎侍を罵倒するイキのよさが眼目の噺です。

幕府瓦解直後の寄席では、その馬鹿にしていた
「薩摩芋」や「長州猿」が天下を取り、
憤懣やるかたない江戸っ子の鬱憤晴らしとして、
この手の噺は、さぞ受けたことでしょう。

ボーダラって?

元々は、タラの三枚に下ろしたものです。

俗語では、酔っ払いまたは阿呆、野暮天を
罵倒する言葉で、この噺では鱈もどき
(不詳。タラの煮付けのことか?)という、
田舎侍のあつらえた料理とひっかけた
演題になっています。

なお、料理とは本来、魚鳥のもののみを指し、
野菜などの精進ものが出る場合は「調菜」
と呼んで区別していました。
    (参考:原田信男著「江戸の料理史」) 

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