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2009.06.13

庖丁(ほうちょう) 落語

間抜けなワルを描いた噺。落語のもうひとつの醍醐味です。

居候になっていた先の亭主がぽっくり死んで、
うまく後釜に納まった常。

前の亭主が相当の小金をため込んでいたので、
それ以来、五円や十円の小遣いには不自由せず、
着物までそっくりちょうだいして羽振りよくやっていたが、
いざ金ができると色欲の虫が顔を出し、
浅草新道の清元の師匠といつしかいい仲になった。

だんだん老けてきた二十四、五になる女房・静と比べ、
年は十九、あくぬけて色っぽい師匠に惚れてしまったので、
こうなるとお決まりで、女房がじゃまになってくる。

どうにかしてたたき出し、
財産全部をふんだくって師匠といっしょになりたい
と考えているところに、ひょっこり現れたのが、昔の悪友の寅。

こちらの方はスカンピン。

常は鰻をおごって寅に相談を持ちかけるが、
その筋書きというのがものすごい。

亭主の自分がわざと留守している間に、
寅が友達だと言ってずうずうしく入り込み、
うまくかみさんをたらし込んで、今にも二人がしっぽり濡れる
というころあいを見計らって、出刃包丁を持って踏み込み、
「間男見つけた、重ねておいて四つにする」
と言えば、もうどうにもならないだろう、という計略。

じゃまな女房を離縁の上、
「洲崎や吉原に売れば水金引いても二、三百にはなるだろうが、
年増なので品川や大千住で手取り八十円だろう。二人で山分けだ」
と持ちかけたので、こうなると色と欲との二人連れ。

寅は飛びつく。

当日。

新道で「貸夜具」をなりわいとする常の家。

予定通り、寅が静をくどこうとするが、
この女、聞かばこそで、
やたらに頭をポカポカこづくものだから、寅はコブだらけ。

閉口して、あろうことか、悪計の一切合切を白状してしまう。

「まあ、なんて奴だろう。もうあいつには愛想が尽きましたから、
寅さん、おまえさん、こんなおばあさんでよければ、
あたしを女房にしておくれでないか」
「よーし、そうと決まったら、野郎、表へ引きずり出して」

瓢箪から駒。

寅がすっかり寝返って、
二人で今度は本当にしっぽりと差しつ差されつ酒を飲んでいるところへ、
台本が差し替えられているとも知らない常さん、
「間男見つけた」と、威勢よく踏み込んだとたん
「ふん、出ていくのはおまえだよ」

したたかにぶんなぐられ、シャツ一枚で表に放り出された。

やっと起き上がると
「ひでえことしやがる。サア、出刃を返せ」
「なんだ、まだいやがった。切るなら切ってみろ」
「横丁の魚屋へ返してくるんだい」

【うんちく】

恵比寿さま 鰻でタイを釣りそこね?

上方落語「包丁間男」を明治期に東京に移したもので、
移植者は三代目三遊亭円馬とされます。

ただ、明治31年11月の四代目柳亭左楽の速記が
残っていて、この年円馬はまだ16歳なので、
この説は?です。

左楽は「出刃包丁」の題で演じていますが、
明治期までは東京での演題は「えびっちゃま」。

にやにや笑って相手の言うことをまともに聞かないことを
恵比寿のにこやかな笑いに例えた慣用表現ですが、
サゲにこの語を使ったことからとも言われ、
はっきりは分かりません。

左楽の古い速記では、常が寅を鰻屋に誘うとき、
「霊岸島の大黒屋、和田、竹葉、神田川、芝の
松金、浅草の前川へ行くという訳にはいかないから」
と、明治30年代の人気店を挙げています。

昭和の両巨匠の競演

戦後では六代目三遊亭円生、五代目古今亭志ん生の
二名人が得意としました。

本来は音曲噺で、円生は橘家橘園という音曲師に習っています。

現在、速記・音源ともほとんど円生のもので、
残念ながら志ん生のはありません。

円生からは門下の円楽、故・円彌、円窓らに継承。
志ん生からは、子息の十代目金原亭馬生に
受け継がれていました。

水金(みずがね)って?

元の意味は、文字通り、湯水のように使いきる
金のことですが、ここでは、常が「水金引いても…」
と言っているので、女の斡旋手数料を意味します。

「水」は「廓の水が染み込んで…」という
慣用句があるとおり、今でいう「水商売」のこと。

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