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2009.06.14

法華長屋(ほっけながや) 落語

ここでいう法華とは日蓮宗のこと。庶民の宗派でした。

宗論はどちらが負けても釈迦の恥

下谷摩利支天の近くの長屋。

ここは大家の萩原某が法華宗の熱心な信者なので、
他宗の者は絶対に店は貸さない。

路地の入り口に
「他宗の者一人も入るべからず」
という札が張ってあるほどで、
法華宗以外は猫の子一匹は入れないという徹底ぶりだ。

今日は店子の金兵衛が大家に、
長屋の厠(かわや=トイレ)がいっぱいになったので
汲み取りを頼みたいと言ってくる。

大家はもちろん、
店子全員が、法華以外の宗旨の肥汲みをなりわいとする
掃除屋を長屋に入れるのはまっぴらなので、
結局、入り口で宗旨を聞いてみて、
もし他宗だったらお清めに塩をぶっかけて追い出してしまおう
ということになった。

こうして、法華長屋を通る掃除屋は十中八九、
塩を見舞われる羽目となったので、
これが同業者中の評判となり、
しまいにはだれも寄りつかなくなってしまった。

ところが、物好きな奴はいるもので
「おらァ、法華じゃねえが、
しゃくにさわるからうそォついてくんできてやんべえ」
と、ある男、長屋に入っていくと、酒屋の前に来て
「おらァ自慢じゃねえが、
法華以外の人間から肥を汲んでやったことはねえ。
もし法華だなんてうそォついて汲ましゃあがったら、
座敷ン中に肥をぶんまける」
と、まくしたてた。

感激した酒屋の亭主、さっそく中に入れて、
仕事の前に飯を食っていけと言うので、
掃除屋、すっかりいい気になって、
芋の煮っころがしじゃよくねえから、
お祖師さまに買ってあげると思えばよかんべえ
と、うまいことを言って鰻をごちそうさせた上、
酒もたらふくのんで、いい機嫌。

「そろそろ、肥を汲んでおくれ」
「もう肥はダミだ」
「どうして」
「マナコがぐらぐらしてきた。あんた汲んでくれろ。
お祖師さまのお頼みだと思えば腹も立つめえ」
「冗談言っちゃいけねえ」

不承不承、よろよろしながら立ち上がって肥桶を担いだが、
腰がふらついて石にけっつまづいた。

「おっとォ、ナムアミダブツ」
「てめえ法華じゃねえな」
「なーに、法華だ」
「うそォつきやァがれ。いま肥をこぼしたとき念仏を唱えやがったな」
「きたねえから念仏へ片づけた」

【うんちく】

宗教紛争は人類「不治の病」

古今東西古代から現代まで、絶えたことのない
宗教、宗旨のいがみあいという、
普遍的テーマを持った噺です。

それだけに、現代の視点で改作すれば、
十分に受ける噺として蘇ると思うのですが、
すたれたままなのは惜しいことです。

速記は、明治27年7月の四代目橘家円喬を始め、
初代三遊亭円右、初代柳家小せん、四代目春風亭柳枝、
八代目桂文治と、落語界各宗派(?)を問わず
まんべんなく、各時代の大看板のものが残されています。

それも昭和初期までで、戦後は六代目円生が
たまに演じたのを最後に、まったく継承者がいません。

だんだんよく鳴る法華の太鼓

原話は不詳で、池上本門寺派の勢力が強く、
日蓮=法華衆徒の多かった江戸で、
古くから口演されてきました。

日蓮宗は「天文法華の乱」や、安土の宗論で
信長を悩ませたように、仏教でも排他的・
戦闘的な宗派で知られています。

法華の噺はほかにも「清正公酒屋」「鰍沢」
「おせつ徳三郎」など、多数あります。

お祖師さまって?

「堀の内のお祖っさま」で、落語マニアにはおなじみ。

本来は、一宗一派の開祖を意味しますが、
一般には、日蓮宗(法華)の開祖・日蓮上人を指します。

掃除屋って?

別称「汲み取り屋」で、
昭和40年代前半までは存在しました。

水洗が普及する以前、
便所の糞尿を汲み取る商売で、
多くは農家の副業。汲んだ肥は言うまでもなく、
農作の肥料になりました。

東京では、葛西(現・江戸川区)の農民が
下町一帯を回りましたが、汲み取りに
ストライキを起こされるとお手上げなので、
「葛西肥汲み」は江戸時代には、
相当に大きな勢力と特権を持っていました。

摩利支天(まりしてん)って?

オリジナルはインドの神です。

バラモン教の聖典「ヴェーダ」に登場する暁の女神・
ウシャスが仏教に取り込まれたといわれています。

太陽や月光などを神格化したもので、
形を見せることなく難を除き、利益を与えるとされ、
日本では、中世から武士の守護神となりました。

楠正成が信仰したことは、よく知られています。

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