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2009.06.03

引っ越しの夢(ひっこしのゆめ) 落語

こういう悪女がいたら、一度おめにかかりたいところ。

たいへんに堅物の商家の主人。

奉公人に女のことで間違いがあってはならぬと、
日が落ちると猫の子一匹外には出さない、
湯にも行かせない、という徹底ぶり。

おかげで吉原にも行けず、
欲求不満の若い手代や小僧が、
店の女に夜な夜ないたずらを仕掛けるので、
とうとう女の奉公人が居つかなくなってしまった。

困った果てに一計を案じただんな、
口入れ屋にとびきり不器量な女だけを斡旋するように頼んだが、
これも効き目なし。

しかたなく、今度は悪さをする連中を痛い目にあわそうと、
特別性悪な女を、という注文。

そこで雇われてきたのがお梅という、二十五、六のいい女。

これが注文通り、たいていの男は手玉に取るという、
相当な代物だが、そうとは知らない店の連中、
一目見たきりぼうっとなり、なんとか一番にお梅をモノにしようと、
それぞれ悪企みをめぐらす。

一番手は番頭の清兵衛。五十を越して独り身だが、まだ色気は十分。

飯を食いに行くふりをしてお梅のそばに寄り、
ネチネチとかき口説く。

先刻承知、海千山千のお梅がしなだれかかり、
股のところをツネツネするものだから、
たちまりデレデレになり、
「予約金」を一包み置いて、今夜の密会を約束して帰っていく。

続いては、手代の平助。

遊び慣れたふりをするが、
お梅にかかっては赤子も同然。

清兵衛と同様、金を巻き上げられ、
約束の時刻はまったく同じ。

以下、来る者来る者みんなオモチャにされ、
金を包んで置いていく。

初日の夜も二日目の夜も、
男という男は全員、すきあらばと一晩中寝ないものだから、
誰一人首尾を果たせない。

昼間はそろいもそろって寝不足で、
あちこちでいびきが聞こえる始末。

三日目の深夜、
むっくりと起き上がったのは清兵衛で、
抜き足差し足で台所まで来る。

お梅もわるもので、
台所から自分の部屋へのはしごを外しておいたのも、知らぬが仏。

清兵衛はキョロキョロ探したあげく、
釣ってある鼠入らずの棚に手を掛けて登ろうとしたから、
たちまちガラガラッと棚が崩れ、鼠入らずを担いだまま、
逃げるに逃げられなくなった。

続いてやって来たのが平助で、
やっぱり同様に、清兵衛が担いでいるもう一方に手を掛けたから、
二人とも泣くに泣かれぬ鉢合わせ。

もがく声を聞きつけた小僧がだんなにご注進したので
「それッ、泥棒が入った」
と、大騒ぎに。

だんなが駆けつけると、清兵衛と平助が、
二人で鼠入らずを担いで目を開いたままグーグー。

「二人ともどうしたっていうんだ」
「へい、引っ越しの夢を見ました」

【うんちく】

「弥次喜多」からも拝借?

もっとも古い原話は、寛永5(1628)年成立の
安楽庵策伝著「醒睡笑」巻七「廃忘」その四で、
男色がテーマです。

美少年の若衆が、ある寺へ寺小姓奉公に。
そこの坊主が少年に夢中になり、夜中、寝入った
ところに夜這いをかけようと、そっと起き出すが、
同じ獲物を狙っていた何人かが跡を付ける。

足音に動転した坊主、壁に大手を広げ、へばり
ついたので、若衆が目を覚ます。問いただされて、

「はい、蜘蛛のまねをして遊んでます」。

その後、寛政元(1789)年刊の笑話本「御祓川」
中の「壬生の開帳」で、かなり現行に近づき
ますが、文化3(1806)年刊の十返舎一九・作
「東海道中膝栗毛」五編・上からも趣向を頂いて
いるようです。

これは、夜這いに忍び出た弥次郎兵衛が、落ちて
きた棚を担いでしまい、やってきた喜多八にこれを
うまく押し付けて逃げてしまう話です。

東西で異なる型 その1

上方では、古くから「口入屋」として
口演されてきましたが、いつごろ伝えられたか、
江戸でも少し違った型で、幕末には
高座に掛けられていたようです。

明治以後、東京でも、上方の型をそのまま
踏襲する演者と、古い東京(江戸)風の演出を
とる者とに分かれました。前者は東京では
三代目三遊亭円馬が初演。上方通り「口入屋」の
演題を用い、四代目柳家小さん、九代目
桂文治もこちらで演じました。

後者は「初夢」または「引越しの夢」と題し、
明治27年3月の二代目(禽語楼)小さんの
速記が残ります。

東西で異なる型 その2

東西で、商家の奉公人が新入りの女中のところに
夜ばいに行くという筋立ては変わりませんが、
大ざっぱな違いは、上方ではこの前に、船場の
布屋という古着屋に、口入屋(=桂庵)から女中が
送り込まれる場面が発端としてつくことです。

また、女が毒婦という設定はなく、御寮人さんが、
若い男の奉公人ばかりの商家に、美人の女中は
風紀に悪いと、不細工なのばかり雇うのに、好色・
強欲な一番番頭がカリカリ。

丁稚に十銭やっていい女を連れてこさせ、その後
口八丁手八丁で口説く場面がつくことも特徴です。

その他、狂言まわしの丁稚のませ振り、三番番頭が
「湯屋番」の若だんなよろしく、女中との逢瀬を
夢想して一人芝居するなど、いかにも大阪らしい、
濃厚であざとい演出です。

なお、上方の演題の「口入屋」は、東京の桂庵、
今でいう職業紹介所のこと。桂庵については
「化物つかい」「百川」をご参照ください。

六代目円生の極めつけ

戦後、六代目三遊亭円生が、六代目五明楼国輔
(1854-?)から直伝された東京型で、ねっとりと
演じました。「円生百席」に吹き込んだものは
特に、極めつけの熱演です。

円生没後は門下の円楽、円窓などに継承され、
現在でもよく高座に掛けられています。

鼠入らずって?

もう説明しなければ分らない時代になりました。

要するに、ネズミが入らないように細工した
食器棚のことです。

なお、上方版では、一番番頭と二番番頭が、
「薪山」と称した、奉公人の箱膳を積んでおく
膳棚を担ぐハメになります。東西の風土の
違いが微妙に現れていますね。

おまけに、故・枝雀演出では、その後三番番頭が、
今度は台所の井戸の淵からターザンよろしく、
天窓の紐にぶら下がって二階に着地しようとして
失敗。あえなく井戸にボッチャーン……という
ハチャメチャ騒動になります。

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