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2009.06.27

よいよい蕎麦(よいよいそば) 落語

「よいよい」とは、なんでしょうか。前の小円朝がよくやっていました。

江戸名物は、火事にけんかに中っ腹(ちゅうっぱら)
というが、中っ腹は気短なこと、なにかというと、悪態をつく。

田舎物の二人連れ、
一生一度の東京見物に来たのはいいが、
慣れないこととて、やることなすこと悪戦苦闘。

そば屋に入っても、生まれて初めてなので、食い方がわからない。

もりがくると、あんまり長いから、
これではハシを持ったまま天井までハシゴをかけて
上がらなければ食えないというので、一工夫。

片方がまず寝ころんで、相棒に食べさせ、
今度はもう一人が、という塩梅(あんばい)で、なかなかはかどらない。

そこへ威勢よく飛び込んできたのが、
言わずと知れた江戸っ子のお兄さん。

もりを注文すると、例によって粋につるつるっとたぐり出したが、
そばの中から釘が出てきたから、さあ収まらない。

「おい若い衆、そばの中に釘ィ入れて売るわけでもあるめえ。
危ねえじゃねえぁ。よく気ィつけろいっ。このヨイヨイめ」

謝罪の言葉も聞かばこそ、悪態をついて、
あっという間に出ていってしまった。

まるで暴風雨。

田舎者の二人、それを見てすっかり度肝を抜かれ、
あの食い方の早えの早くねえの、
あれはそば食いの大名人だんべえ
と、ひどく感心したが、
終わりのヨイヨイというのが、なんだか、よくわからない。

そこでそば屋の親父に尋ねるが、
親父もまさか親切ていねいに「翻訳」するわけにもいかず
「あれはその、近頃東京ではやっているほめ言葉で、
手前でものそばがいいというんで、よい、よいとほめたんです」
と、ゴマかす。

二人はすっかり真に受けて、
一度これを使ってみたいと思いながら、今度は芝居見物へ。

見ているうちに、いい場面になった。

東京の歌舞伎では、役者がいいと声をかけてほめると聞いたので、
ここぞとばかり
「ようよう、ええだぞ、ヨイヨイ」

怒ったのが贔屓の衆。

「天下の成田屋をつかめえて、ヨイヨイたあ何だ。
てめえたちの方がヨイヨイだ」
「ハァ、太郎作、喜べ。おらたちまでほめられた」

【うんちく】

二通りのヴァージョン

原話は不詳で、明治31年4月、「百花園」に掲載された
六代目桂文治の速記では、「江戸見物」と題しています。

これはオチは同じですが、後半途中から芝居噺仕立てになり、
そば屋の場面はありません。江戸っ子に突き当たられた後
そのまま芝居小屋での失敗談に移ります。

あらすじの「よいよい蕎麦」の方は、明治期では
初代三遊亭円右が得意にしたもので、、こちらが
本元だろうと思われます。

本来、丁寧に演じると、そば屋の場面の前に
食物と間違え、炭団を買ってかじる滑稽が付きます。

元祖「ボヤキ落語」で知られた、同時代の五代目
三升家小勝(1859-1939)や二代目三遊亭金馬を
経て、戦後は三代目三遊亭小円朝が時々演じました。

小円朝は速記は残っていますが(青蛙房刊
「三遊亭小円朝集」所収)音源はなく、初代円右の
SP復刻版だけが、今聴ける唯一の貴重な音源です。

小円朝以後の継承者は、今のところいない模様です。

親馬鹿ちゃんりん蕎麦屋の風鈴

けんどんそば切り(今でいうかけそば)が
一杯八文で売り出されたのは寛文4(1664)年のこと。

その後、貞享年間(1684~88)に蒸し蕎麦が流行。
同時に江戸市中に、多くのそば屋が出現。
頼まれれば、天秤の片担いで出前もしました。

別名二八蕎麦と呼ばれる、屋台のそば屋が現れたのは
享保年間(1716~36)といわれますが、それ以前、
貞享3(1686)年にすでに、

「温飩(うどん)、蕎麦切、其他何ニ寄らず、火を持あるき
商売仕り候儀、一切無用に仕るべく候」

というお触れが出ているので、かなり長い間、長屋の
食うや食わずの連中が、アルバイトに特に夜間、
怪しげな煮売り屋を屋台で営業していたわけです。

お上では「食品衛生法違反容疑」よりむしろ
火の元が危なくて仕方ないので、
禁止したということでしょう。

よいよいって?

元は、幼児のよちよち歩きを指しましたが、
のちに中風病み、マヌケ、酔っ払い、みすぼらしい服装の
人間などをののしる言葉になりました。

寛政年間(1789~1801)の戯作、洒落本などにこれらの例が
出揃っているので、およそこのあたりが起源なのでしょう。

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