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2009.07.01

もぐら泥(もぐらどろ) 落語

明治も、初期を舞台にした噺。円生がやってました。

大晦日だというのに、
女房がむだ遣いしてしまい、やりくりに困っているだんな。

ぶつくさ言いながら帳簿をつけていると、
縁の下で、なにやらゴソゴソ。

いわゆる「もぐら」という泥棒で、
昼間のうち、物乞いに化けて偵察しておき、
夜になると、雨戸の敷居の下を掘りはじめる。

ところが、昼間印をつけた桟までの寸法が合わず、悪戦苦闘。

だんなが
「ええと、この金をこう融通してと、
ああ、もう少しなんだがなあ」
とこぼしていると、下でも
「もう少しなんだがなあ」

「わずかばかりで勘定が追っつかねえってのは、おもしろくねえなあ」
「わずかばかりで届かねえってのは、おもしろくねえなあ」

これが聞こえて、かみさんはなにも言っていないというので、
おかしいとヒョイと土間をのぞくと、
そこから手がにゅっと出ている。

ははあ、こいつは泥棒で、桟を弾いて入ろうってんだ
と気づいたから、
「とんでもねえ野郎だ。こっちが泥棒に入りたいくらいなんだ」

捕まえて警察に突き出し、
あわよくば褒賞金で穴埋めしようと考え、
そっと女房に細引きを持ってこさせると、
やにわに手をふん縛ってしまった。

泥棒、しまったと思ってももう遅く、
どんなに泣き落としをかけてもかんべんしてくれない。
おまけにもぐり込んできた犬に小便をかけられ、縁の下で泣きっ面に蜂。

そこへ通りかかったのが廓帰りの男で、
行きつけの女郎屋に三円の借金があるので
お履物を食わされた(追い出された)ところ。

おまけに兄貴分に、明日ぱっと遊ぶんだから、
それまでに五円都合しとけと命令されているので、
金でも落ちてないかと、下ばかり見て歩いている。

「おい、おい」
「ひえッ、誰だい? 脅かすねえ」
「大きな声出すな。下、下」

見ると、縁の下に誰か寝ている。

酔っぱらいかと思うと、
「ちょっとおまえ、しゃごんで(しゃがんで)くれねえか。
実は、オレは泥棒なんだ」

一杯おごるから、腹掛けの襷の中からがま口を出し、
その中のナイフをオレに持たしてくれ、と頼まれる。

「どこんとこだい? ……あ、あったあった。
こん中に入ってんのか。へえ、だいぶ景気がいいんだな」
「いくらもねえ。五十銭銀貨が六つ、二円札が二枚、
みんなで五円っかねえんだ」

五円と聞いて男、これはしめたと、がま口ごと持ってスタスタ。

「あッ、ちくしょう、泥棒ーう」

【うんちく】

古きよき時代とともに……

原話は不詳で、上方では「おごろもち盗人」といいます。
「おごろもち」は、関西でもぐらのこと。

昭和初期に五代目(俗に「デブの」)三遊亭円生が
よく演じ、六代目円生もたまにやりましたが、
速記が残るのは先代(六代目)蝶花楼馬楽くらい。

東西とも、現在ではあまり演じられません。

オチは皮肉がきいていて、なかなかいいので、
すたれるには惜しい噺なのですが。

「第十七捕虜収容所」泥は時代遅れ

こうした、軒下に穴を掘って侵入する手口を
文字通り「もぐら」と称しました。

もちろん「泥」にかぎらず、戦争映画などで
よく見る通り、捕虜収容所やムショからの脱走も、
穴を掘って鉄条網の向うに出る「もぐら」方式が
もっとも確実だったのですが……

特に都会で、軒下というものがほとんど姿を消し、、
穴を掘ろうにも土の地面そのものがなくなった現代、
こうしたクラシックな泥棒とともに、この噺も
姿を消す運命にあったのは、当然でしょう。

「ギザ」の使いみちは?

五十銭銀貨は、明治4年、表がドラゴン、裏に
太陽を刻印したものが大小二種類発行されたのが
最初です。俗に「旭日龍」と呼ばれました。

明治39年のリニューアルで表の龍が消え、通称は
「旭日」に。ついで大正11年、従来より小型で
銀の含有量の少ない「鳳凰」デザインのものに統一。

これは「ギザ」「イノシシ」とも呼ばれ、
昭和13年、戦時経済統制で銀貨が姿を消すまで、
事実上、流布した最高額の補助貨幣でした。

どんなに使いでがあったかを、大正11年前後の
商品価格で調べてみると、五十銭銀貨一枚で
釣りがきたものは……

寿司・並二人前、鰻重、天丼・並各一人前、
もりそば5~6枚、卵8個、トンカツ3皿、
二級酒4合、ビール大瓶一本、ゴールデンバット
十本入り8個、炭5キロ。湯銭大人一人十日分。

お履物って?

廓で、長く居続ける客を早く帰すため、
履物に灸をすえるまじないがあったことから、
女郎屋を追い立てられる、または出入り
差し止めになることを「お履物を食わされる」
といいました。

五代目古今亭志ん生は、単に「おはきもん」
と言っていました。

ギャグから

かみさんが、あとで泥棒仲間に仕返しで火でも
つけられたら困るから、逃がしてしまえとだんなに言う。

泥;(調子にのって)ほんとだいほんとだい。
  仲間が大勢いて無鉄砲だから、お宅に火を
  つけちゃ申し訳ねえ。
亭;つけるんならつけてみろい。どうせオレの
  家じゃねえや。

……ごもっともで。

             (六代目蝶花楼馬楽)

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