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2012.10.17

二代目古今亭円菊

手話落語の先達

  二代目古今亭円菊、本名・藤原淑。静岡県島田市生まれ。

 従来の資料だと、いずれも昭和4(1929)年4月29日生まれとなっていたが、今回の訃報ではどれも「84歳没」としてあり、してみると真実は昭和3年生まれだったらしい。ともかく五代目志ん生に入門したのは昭和28年7月で、その時、25歳3か月。

 それでも、精進の甲斐あってか、四年後の32年3月。二つ目昇進で生次から六代目むかし家今松。同年同月入門の現・橘家円蔵に二年差をつけられた。それからが長い道のりで、やっと真打に上り詰めたのが41年9月、38歳で二代目円菊を襲名。

 この名前は別に大きくも何ともなく、師匠・志ん生の二つ目に上がったときの名前が、円菊の初代だった。その間、志ん生が36年に脳出血で倒れ、円菊の今松は師匠の介護にかいがいしく働き、どこへでも彼が師匠を負ぶっていく。真打になっても売れるわけではなく、はっきりいえばずっと不遇だった。ただ、地道な精進がやっと五十過ぎに花開く。54年、協会理事に。

 そのころから後年「円菊節」と呼ばれる独特のイントネーションと間、噺と微妙にずれる、パントマイムのようなオーバーアクションも、円菊独特のものとして、根強いファンを獲得していった。翻って、いわゆるフラは乏しく、決して「うまい」噺家でも「面白い」噺家でもなかった。ただ、誠実で、嫌味のない芸ではあった。どこかしらホンワカして、爆笑できなくとも、何かこの人が高座に現れると、少しだけほっとして肩がほぐれる、行儀のいい芸。47歳から始めた手話落語、ボランティアや慰問への取り組みなどは、この人の気質のそうした、客に与える安心感と無縁ではない。こういう噺家は、案外いるようでいない、得難い存在だったのではないか。

 かつての志ん生一門の円菊の朋輩は、多くが還暦さえ待たず早世している。その中にあって、もっとも不遇で、開花が遅かった菊一輪が、師匠を一年超す長寿を保ち、一門の最長老として、将来への種まきを済ませ、心おきなく散った。それは師匠の霊が、この「下手くそな弟子」を、ほかの誰よりも信頼していた証拠かもしれない。合掌。(た)

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落語家を笑え(物故者編)」カテゴリの記事

コメント

すみません、毎日来ないので今読ませていただきました。圓菊を評価しない私の胸をも打つ素晴らしい追悼の文章です。

投稿: snob | 2012.11.18 22:07

私はウェスタン落語って呼んでました(笑)。
身をよじって片方のお尻にだけ重心をかける仕草が
そんなふうに見えたんです。寂しいですね。

投稿: shiori | 2012.11.20 20:03

SNOB さま

拙い駄文をお目に止めて頂き、汗顔の至りです。

個性のある噺家が一人また一人と姿を消していくのは、
本当にさみしい(江戸風にいえば「さむしい」)限りですね。

古い話になりますが、歌舞伎の往年の名優・六代目尾上菊五郎
(1949年没)が死の床にあったとき、愛弟子の先々代尾上
松緑に言い残した言葉が、

「おめえ、まずくってもいいから、行儀よくやれよ」

だったそうです。いろいろな分野で昔より芸がガタ落ちしたと
いわれる昨今、上手下手よりも何より今なくなったものは、
まさにその「行儀のよさ」(「品のよさ」ではなく)では
ないか、と、近頃しきりに思います。

円菊師は、それを確かに持っていた「最後の人」だったのではないかと。

これからも、当サイトを宜しくお願いします。

投稿: たか | 2012.11.23 20:14

SHIORI さま

ご閲覧・ご投稿ありがとうございます。

ウェスタン落語」というのは、まさに絶妙のネーミング、
言いえて妙ですね。

数年前、新宿・末広亭そばの今はなき「バルコニー」という
喫茶店の二階で、隣の席で偶然、円菊師を目撃しました。
マネージャーか協会関係者とおぼしい人物と、あれこれ
打ち合わせの最中らしく、ほとんど笑顔も見せず、その挙措・
表情は真剣なプロフェッショナルそのものでした。

生涯第一線の現役を貫き、福祉関係への取り組みなども
落語家としてはパイオニア的存在でしたし、落語界は得難い
重鎮を失ったと思います。


投稿: たか | 2012.11.23 20:33

お詫びと訂正

前コメントで、喫茶「バルコニー」が「今はなき」
と書きましたが、同喫茶店は13年4月現在、まだ
営業中でした。「バルコニー」さんにはご迷惑をおかけし、
大変申し訳ありません。謹んで訂正し、お詫びします。

投稿: たか | 2013.04.10 07:58

俺はいつも爆笑した火炎太鼓は大好き 明からす錦の袈裟 とにかく火炎太鼓はリクエスト声架けしたら俺の顔見るたびトリで寄席でやるのは閉口したが

投稿: 介護労働者 | 2014.07.05 00:40

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