いだてん ~東京オリムピック噺~

2019.02.08

『いだてん ~東京オリムピック噺~』の主人公は志ん生だろ。

NHKの大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』の狂言回しは、なんと古今亭志ん生。なんだかよくわからない頃の美濃部孝蔵役を森山未来が、できあがった頃の志ん生役を北野たけしが演じています。どちらもなかなかの雰囲気が出ていて、好感です。

このドラマにも落語の演目がスパイスとしてほどよく登場するんですね。第1回放送分(1月6日放送)では「富久」が扱われました。さすがは宮藤官九郎。「タイガー&ドラゴン」が思い起こされます。

第2回(1月13日放送)の『いだてん』では「付き馬」が登場しました。美濃部孝蔵が吉原から逃げ出す算段で付き馬をまんまと利用したのです。痛快でした。それと、松尾スズキ演じる四代目橘家円喬。性格は少々いびつですが、円朝の芸風を本寸法で受け継いでいる人。彼の芸に触発されて、孝蔵は落語の世界に入っていったそうです。「弟子入りした」というのはふかしでしたが。

第3回(1月20日放送)でも美濃部孝蔵はいまだ落語世界に住み着いてはいませんでしたが、円喬の片鱗がちらり。のちの志ん生が好んでやっていたなすびの小咄を聴かせていました。思うに、このドラマは、北野たけしと森山未來の演じる古今亭志ん生(美濃部孝蔵)が主人公で、金栗四三と田畑政治らはたんなる狂言回しなのではないか、という陰謀史観。クドカンのたくらみが透けて見えます。サブタイトル「東京オリムピック噺」の「噺」こそがその証し。大河ドラマもついに落語家をヒーローにしてしまったとは。史上最高の傑作です。

第5回(2月3日放送)、第6回(2月10日放送)では「芝浜」が。でも、志ん生はかすっただけでやってはいません。清さんから聴いたという「オリムピック噺」をおろしていくわけです。乙な導入ですね。ちなみに、第4回(1月27日放送)では大塚の播磨屋なるたび店が登場、店主の黒坂辛助はピエール瀧が。思わず「洒落がきいてるー」と吹き出しちゃいました。だって、『陸王』(2017年10~12月、TBS系で放送)では足袋製造会社こはぜ屋の敵役アトランティス日本支社の営業部長・小原賢治を演じていたのですから。「薄汚い足袋屋なんか」などと、ものすごい暴言を吐いていましたっけ。それが今回は金栗四三に協力を惜しまない足袋職人とは。味な本歌取りにぐっときますね。こはぜ屋の社長、宮沢紘一役は役所広司。『陸王』では、ストックホルム大会に出場した金栗四三が足袋で走った逸話を披露していました。ミッドフット走法というやつでした。『いだてん』では今後、播磨屋と嘉納治五郎は対面するのでしょうか。呶呶を要せず。でも、気になります。

ところで、神木隆之介演じる五りん(←小松)という志ん生の弟子(らしき人物)。荒川良々演じる今松はむかし家今松(→古今亭円菊)と想定できるのですが、五りんは架空なのでしょう。五輪からの五りんでしょうが、もうひとつ、五厘から来た五りんとも解せます。五厘とは明治期に暗躍した、寄席と噺家を仲立ちするブローカーのような職業の人たちをいいました。要は、落語界の鼻つまみ者です。いくら落語ファンでもいまどきこんなのを知っている人はめったにいませんから、クドカンに入れ知恵する小気味よい輩が影にいる、ということなのでしょう。わくわくします。毎週見逃せませんね。

ピエール瀧が大麻所持で逮捕されるとは大きな誤算だったのでしょうか。ある種の人たちには想定内だったのでしょうか。それはともかく。視聴率低下のNHK的なてこ入れで、この作品が回を重ねるごとに「ただの大河」に堕落していくさまが手に取る如くで、学芸会のやり直しを見ているようで、どこか気恥ずかしい思いにとらわれています。

前半の山場らしい第12回(3月24日放送)。金栗四三がストックホルム大会で走る場面です。志ん生(朝太)は車引きながら「富久」を必死で仕込んでいます。このダブルイメージはもうすでに全国の視聴者には慣れた「斬新映像」ですから、とくに驚くに値しないわけですね。悪くない。というか、上出来の映像です。金栗の条件悪い中での悪戦苦闘するさま。朝太の車を引かなきゃ噺を仕込めないという奇矯なさま。二人の苦悩と焦燥が噴出した、みごとな重ね方でした。そこで、ググると時折読まされるテレビウォッチャー古川織部なる人の評価。これはどうも当たっていないように感じました。視聴率を二けたに戻せとか、落語シーンを入れると視聴率が落ちるからとか。うーん。彼、落語が嫌いなのでしょうか。となると、その前の段階ですかね。私なんか、落語シーンが見たくてうずいているのに。世間は広いです。いやはや。

 

 

 

 

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)